戦略的に身のまわりの問題『値引き競争』を解く{その4 減量経営のコミットメント効果}

 

価格コミットへの信頼度を回復するための一つの策は、増産余地をなくすことである。増産できなければ、価格を下げても販売は伸びないのでメリットはない。したがって、増産しないことに信頼できる形でコミットできれば、価格コミットメントの強化に役立つのだ。2001年度中からの急速な景気の悪化を受け市況低迷が続く、鉄鋼、石油、化学などの素材産業では、供給を抑制すべく過剰設備を休止したり廃棄したりする動きが2002年になって本格化してきた。

日石三菱グループ(新日本石油グループ)は、グループがもつ富山製油所を2005年をめどに閉鎖、設備を廃棄する方針を決めた。エチレン、ポリエチレンなどの素材生産大手も、2001年、2年度に一部設備の稼働を中止することに決定し、設備廃棄の検討も開始した。

2001年末、鉄鋼の世界的な生産過剰対策として年産1tの設備を削減することが経済協力開発機構(OECD)の会合で合意され、日本政府は粗鋼ベースでみた日本全体の3分の1の2800t分の設備廃棄を示した。業界筋からは、これはすでに休止中のものや、効率が悪くどのみち廃棄されなければならなかった設備を積み上げた数字であるから、あまり意味がないという否定的なコメントが報道された。それに対し、経済産業省は設備があれば使う可能性も出てくるため、この廃棄案には意味があると反論した。

老朽化のため効率の悪い設備では、生産コストがよりかかるから当然利益率が悪くなる。素材の価格が低迷し、景気の回復が視野にはいってきていない状態では、稼働すればそれだけ損失がかさむという設備も生まれてくるため、それらの設備をとめることは、利益追求の観点から当然の決断であると理解できる。

しかし、なぜ設備を休止させるだけではなく、廃棄する必要があるのだろうか。一見すると、維持するコストがそれほど大きくなければ、まだ使える設備を廃棄してしまうのは経済的な損失である。また休止していても廃棄されていても生産量には変わりはないのだから、素材の供給量は変化せず、価格に与える影響もないかのように思われる。したがって、設備を廃棄する理由は休止した場合の維持費がかさむことに帰されそうである。

しかしながら、設備を休止し清算ラインを止め稼働可能なまま保持するのと、設備を廃棄してしまうのでは戦略的に大きな違いがある。設備廃棄は減産のコミットメントを信頼できるものにする戦略的効果があるのだ。稼働可能な設備を休止させて生産量を削減している場合には、需要が増大した場合直ちに増産を行い価格競争に備えることができるという意味あいを持つ。

したがって戦略的に見れば、休止中の設備を廃棄することには、たとえ現時点での生産量に影響はなくとも、将来景気が回復してきたときに、価格を維持するコミットメントを信頼できるものにする効果があるからだ。戦略的思考がどこまで働いてのものかは不明だが、経済産業省の反論は、設備があれば使う可能性もあるため、設備廃棄には意味あるというものであったことは興味深い。