オークション{その3 価格下落型競売(1)}

 

通常の競売と逆に、競り人がしだいに値を下げていって、はじめに手を挙げた人が競り落とすという価格下落型競売というオークションの方式もある(オランダ式オークションと呼ばれる)。これはオランダのチューリップの競り売り、シドニーの魚市場で実際に使われている。東京中央卸売市場のひとつ、大田花卉市場では切り花や鉢植えの花木の競りが行われているが、ここでの競りの形式も価格下落型である。

値段が下がってきて、落札者が決まるというのは何か妙な感じがするかもしれないが、映画で「寅さんが」やっているたたき売りは、まさに価格下落型競売である。バーゲンの時期になって、週末に出かけるたびに季節外れの洋服の値段が下がるのも、実は価格下落型競売の一類型である。ちょっと気に入った夏物のワンピースなのだけれども、3万円はちょっと高い。せめてあと1万円やすくならないかな、とあきらめて帰った。

1週間後、そのワンピースが1万5000円になっていたのを発見し、あわててムシリ取るようにレジにもっていき買ってしまったとしよう。これをもう少しアカデミックに表現すると、オークションにかかっている商品がワンピースで、売っているデパートが競り人。買い手は不特定多数の消費者たち。競り人がしだいに値段を下げていって、一番最初に品物を手に取ってレジに持って行った人が、落札者である。

同様に、閉店時間が近づくにつれ、刺身用の魚の値段が下がっていくのも、価格下落型競売の応用例であって、値下げのシールがいつ貼られるかと周囲を徘徊するのも立派な戦略である。大田花卉市場のオークションは次のような手順で進む。階段状に席が並ぶ講堂のような競り場の前は、何人かの競り人がいて、それぞれ異なったタイプの花を扱っている。例えば、ある競り人は洋蘭の鉢植えを次々に競りにかけ、また同じ時にある競り人は菊の切り花を競りにかけるという具合である。

各競り人の後方には、それぞれ大きな電光掲示板がある。そこには巨大な時計を思わせる円形の競り値の表示器があり、そのほかに競りにかかる商品の種類、競りの単位(1箱、1鉢、など)、生産者の名前などの情報が掲示される。円形の競り値表示器には、ドーナツ型に小さなライトが埋め込まれていて、左下の方を0円として時計回りに金額が上がるようにメモリがつけられてある。

競り人は、競りにかける商品を検分しつつ簡単な説明を加えながら買い手に示す。葉がしおれたりしていれば、その旨買い手に注意を促して、いよいよ競りをはじめると、円形の表示版全体に一瞬紅い灯がともり、ほとんど間髪を入れず、その右の端から一つずつ、しかしかなりの速さでライトが消えていく。これが、競り値段の下落に対応しているわけである。