オークション{その3 価格下落型競売(2)}

 

買い手の座っている席の前のテーブルには入札の意思表示をするボタンがあり、それを真っ先に押した人が、その時表示板に示された金額で商品を買い取る権利を得るわけである。価格下落型オークションの大きなメリットは、競りにかかる時間の短さである。買い手の数を次第に絞り込まなければならない競売形式だと、落札価格付近では価格を競り上げる速さを遅らせざるを得ない。

一方で買い手が1人意思表示をした瞬間にオークションが決着する価格下落型ではこの問題は生じない。大田花卉市場のオークションでも、各商品について競りが始まってから終わるまでの時間は数秒で、説明の時間を入れても一つの商品が1分もかからずに次々と売りさばかれていく。それでは、価格下落型のオークションにおいてはどのような戦略をとるべきであろうか。

競り人が公開された価格を調節して落札者を決めるという点では、競売も価格下落型競売も同じであるが、両者の戦略構造には大きな違いがある。例えば、ある商品について払いたいと思う最高金額が1万円だったとしよう。この商品がこの商品が競売にかかっていた場合には、価格が1万円に吊り上がるまでは降りない、1万円になったらおりるという戦略が、ほかの人の戦略にかかわらず最善であった。

ところがこの商品が価格下落型オークションにかかった場合はそう簡単ではない。価格が1万円を超えるときにはもちろん下落札出すべきではないが、価格がちょうど1万円のときにも落札するのは考え物である。それでは落札しても得にならないからだ。したがって、1万円まで下がっても少し我慢をしなければならない。どの程度我慢すべきかは、他の買い手の戦略による。

もしほかの買い手が5000円まで落札しようと思わないということがわかっていたならば、価格が5000円近くになるまで我慢すべきであるが、それがはっきりわからないときには、下がるのを待っているうちに誰かほかの人が落札してしまうかもしれない。つまり、価格が1万円を下回った後、どの程度まで下がるのかを待つべきかは、他の参加者の戦略に依存して決まる。つまり、価格下落型競売では、競争と異なり、相手の戦略にかかわらず最善になるような戦略はない。

最適な戦略を見つけるためには、他の参加者の戦略を予測する必要がある。他人の戦略まで考慮しなければならないとすると、アツクなる人をはじめ得体の知れない行動基準で毎日を送っている人々のことも勘案しなければならないのでたいへんである。したがって、価格下落のオークションで賢く行動するには勘と経験が必要になってくるので、価格下落型はプロ向きのオークション形式といえる。

洋服のバーゲンや閉店時刻近くの食品売場も、同じ理由でプロ向きの場所であるが、これに関しては経験豊かな人々がたくさんいるのでうまく機能するのである。また、売り手の立場から見たとき、競売と価格下落型オークションのどちらが優れているかは微妙な問題である。競売での落札価格は参加者の中で2番目に高い支払金額で決まるから、一見すると価格下落型オークションの方が有利に見える。

 しかし、価格下落型オークションでは誰も自分が支払う意思のある金額では買おうとはしない。したがって、参加者がじっと我慢した結果、一番高い金額を払う意思のある人が落札するのは、結局2番目に高い金額よりもはるかに低くなるかもしれないから、そのあたりの得失をきちんと評価してやらなければならないのだ。