戦略的に身のまわりの問題『値引き競争』を解く{その1 価格競争}

 

マクドナルドの平日半額セールがきっかけとなったハンバーガーの価格切り下げは、その後牛丼にも飛び火し、2001年4月、業界最大手の吉野家のディーアンドシーが期間限定ながら牛丼を250円にするなど、ファーストフードの価格競争は激化の一途辿った。2001年の後半には、狂牛病の騒ぎと円安の影響で安売りには歯止めがかかったようには見えたが、2002年になっても200円台での安値のファーストフードの提供は続いた。かつてのハンバーガーや牛丼の値段を思えば隔世の感があった。

一般家電製品の定価販売は形骸化し、メーカーの広告にある希望小売価格で家電製品を購入する消費者はまずいない。家電製品店では、希望校価格からどのくらい値引きするかを熾烈に競って値下げをしている。またメーカー側でも、希望する小売価格を提示しないケースが増えている。ソニーは2001年の41日から、従来の低価格製品のみでなく、全家電製品のメーカー希望小売価格を撤廃した。東芝も、すべての家電製品について希望小売価格を2001年から順次撤廃した。

このように価格競争は消費者にとっては歓迎すべきことだが、競争をしている企業にとっては必ずしもそうではない。価格の低下は需要を増やすから、産業全体の販売量は増加するであろうが、肝心の利潤率は切り詰められるからである。それならば、なぜ自分たちにとって好ましくない価格切り下げ競争を企業は始めるのであろうか。またなぜあるときは、価格競争は起こらず横並びの価格を維持することに企業は成功するのであろうか。

需要が低迷するときに、価格が下がるのは経済原則のひとつである。価格の低迷が需要の低迷により引き起こされるケースは数多い。しかし、この例では需要量がごく短期間の間に激減したわけではない。同様に、生産コストの削減も価格低下の要因になる。しかし、価格競争が突如としてはじまり激化することへの回答にはならない。価格競争の時期と時を同じくして、需要が激化した、あるいは生産コストが短期間に激減してその価格が下落したという説明には説得力がない。

1994年4月に121円/ℓだったレギュラーガソリンの平均店頭価格(石油情報センター調べ)は、199712月には99円/ℓ程度となり、3年半余りの間に22円/ℓほど下落した。この間、原材料である原油価格は円建てで約6円/ℓ上昇したのであるから、生産コストの減少が価格の下落を導いたわけではない。しかも、ガソリンには1ℓあたり約53円の税金が消費税とは別に課税されているため、実質の販売価格は70円/ℓ程度から40円/ℓ程度まで実に4割も下落したのである。ガソリンの店頭価格の下落はガソリンスタンドの価格競争の熾烈さを物語っている。

われわれの生活と切っても切れない段ボール箱であるが、その素材となる段ボール紙の価格の方は低迷を続けている。2000年の5月までの2年間の価格の推移を見ると、両面段ボール紙の材料となる原紙の価格も低迷を続けていたが、28円まで下落している。一方で、段ボールの場合の買い手は、段ボール製品のパッケージなどに使用するメーカーになるが、買い手の要求に対し、原材料コストの上昇にもかかわらず、各段ボールメーカーは値下げ競争を余儀なくされているのである。

このような短期間での急激な価格競争の構造は、戦略的関係を考えなければ理解できない。戦略的分析の言葉でいえば、なぜ企業が突如として値下げ競争に陥ったのかという問題は、なぜもとの価格にコミットしあえなかったのだろうか、といいかえることができる。この問題のキーワードは価格への戦略的コミットメントなのだ。この観点から、価格競争の問題を整理していくことにする。