コミットメントというキーワードで理解できる経済現象は多い。一番単純な例は、簡単な物の売買の場面で現れる。まずは、売り手と買い手の1対1の売買である。叩き売りをする売り手が、これ以上びた一文まけられないとタンカを切るのは、経済学的に理に適っている。つまり、叩き売りは自分が絶対に値下げをしないということを買い手にコミットしたいわけである。
買い手がその品物を1000円以下ならば買おうとしているとき、売り手が900円以下では売らないことをコミットできれば、買い手は900円で手を打つだろう。なぜならば、売り手が900円以下で売らないという前提のもとでは、900円で買い取る以上に有利な結果は得られないからだ。ところが弱気を見せて、いくらでも値下げすると思われてはどこまで足元を見られるかわからないからだ。
同様なことが買い手にも言える。イスラエルの首都エルサレムの旧市街地には雑多な土産物屋がひしめいているが、これらの土産物屋に行ったときには、絶対に売り手の言い値で買ってはならない。できるだけ安く値切る意思を見せ、まけないのなら買わなくてもよいと立ち去るくらいの意気込みで、買い取る最高価格にコミットすることが肝要である。もっとも、こうした観光地での買い物は、エルサレムに限ったことではない。
叩き売りや土産物屋のような例は、われわれの身の回りにもたくさんある。冬物のバーゲンを考えてみよう。「最後の大バーゲン」と銘打って売り払おうとするのは、実はこれ以上価格を下げないとコミットする作戦である。スーパーマーケットでは、閉店間際になると生鮮食料品を値下げして売り切ろうとするが、高級食料品店ではしない。もし売れ残れば処分してしまうというもったいない話だが、これも価格を下げないことにコミットしようとしているのである。
いわゆる高級ブランド品と呼ばれる装飾品は、デザインが古くなっても値引き販売はされずにどこかに消えてしまう。バーゲンセールなどやらないとコミットすることで、消費者により高い値段を払わせることができるのだ。しかし、ファッションなど流行性の高い服飾品などは、早めに在庫を処分したいという本音もある。一方の消費者はもう少し安ければ買いたいという人もいる。そうした双方の思惑から、アウトレットという業態が生まれた。
代理人(エージェント)を媒介して物品を売るというのも、実は価格へのコミットメントとして働く。もし私が八百屋の商店主であったら、百戦錬磨の買い手たちに、たちどころにして値切られてしまうであろう。敢えてアルバイトを雇って売らせてみたらどうであろう。アルバイトは自分にはその権限はないから、と値下げを拒むに違いないし、交渉する相手もそれならば仕方がないと引き下がることであろう。スーパーやデパートで品物を値切る人が少ないのは、このコミットメントの効果が働いているのだ。
また、価格へのコミットメントのしかたでも、一味違った活用のし方もある。それば、大型家電量販店などで採用している、値引き戦略である。それは、「他の同業店の領収書を提示していただけば、同一商品の価格をその価格よりさらに値引きします」といったものや、「価格については、係員に相談ください」などという大胆に見えるコミットのし方もある。これらは、価格へコミットしているかに見えて、実は集客の手段として活用している。
つまり、価格については地域の同業店より安い一番店であることをアピールする狙いがある。さらに、同一商品の領収書やチラシを提示してもらうことによって、同業他社の集客力や価格戦略をリサーチできるという効果もある。いうなれば、価格にコミットすることを逆利用しているというわけである。こうした戦略はインパクトがあり、「〇〇円以上お買い上げの方にコーヒーをサービスします」という従来のやり方に対して、「コーヒーを無料でサービスします」とコミットすることで、消費者のお得感をくすぐるというやり方である。