コミットメント{その4 信頼できるコミットメント}

 

コミットメントが戦略的な効果を十分に発揮するためには、それが信頼できるものでなければならない。いくら自分がある行動にコミットした気になっていても、相手がそれを信頼してくれないことには、相手の行動が予定通りに決まるとは限らないからである。さきにあげたレストランの予約の例では、予約を入れた人に他の重要な用事が入ればその予約は確実にキャンセルされる。

したがって、「一見の客がレストランの予約をしても、それはあまり信頼できるコミットメントではない。したがって、パーティーの予約をして約束の時間どおりに来たのに、こちらの顔を見てから店員があたふたとテーブルを動かしはじめても怒ってはならない。自転車で衝突を避けるためには通りの片側にコミットすべきであると述べたが、酔いどれてふらふらしながら運転している人がこれをやっても効果は薄い。

ダイエットの例でも、もちろん自分にケーキを食べてはいけないと言い聞かせることもコミットメントの一形態であるが、将来の自分にとっては到底信頼のできるものではないのが問題である。同じ理由で、衝動買いはしないようにしよう、酒を飲むのはやめておこうといくら自分に言い聞かせ将来の自分の行動をコミットしようとしても、その信頼度が怪しいものなので効果がないのである。

いつでもバーゲンセールをやっているような店では、定価で商品を売るのは難しい。低下を維持するというコミットメントは信頼されず、待っていれば価格は下がると期待されてしまうからだ。報酬として来年の正月に1000万円払うというとコミットできれば、たいていの家事は配偶者に押し付けられるはずであるが、いかんせんこのコミットは相手に信頼されないから効果を発揮しない。

それでは、どのようなコミットメントが信頼されるのであろうか。信頼できるコミットメントとは、実際に宣伝どおりに遂行されるとみてよいコミットメントということである。したがってコミットメントを信頼できるものにするためには、当初にコミットメントしたとおりの行動をとるインセンティブがある、あるいはコミットメントに反した行動をとることができないか、さもなくば莫大な損失を被るということを相手に知らしめる工夫が必要である。

場所を決めて待ち合わせをするのも、コミットメントが役立つ例である。知り合いと待ち合わせ場所を決めるとき、もし相手が渋谷駅で待ち合わせをしようと言い出したら、つまり相手が渋谷駅にあらわれるという行動をとるコミットメントをしてきたとき、このコミットメントの信頼度はかなり高い。こちらを渋谷に呼び出しておいたときに、本人が新宿に現れても何のメリットもないからだ。

つまり、当初にコミットメントしたとおりの行動をとることがコミットメントした人の利益になるので、これは信頼できるコミットメントなのである。一方待ち合わせ時間の方はそれほど信頼のおけるコミットメントではない。こちらを時間通りに来させておいて、コミットメントに反して15分遅れて悠々と現れるほうが、自分が待たされることを避けられるという利益があるからだである。

法律や制度もコミットメントの信頼度強化に利用されている。ある行動をとることが制度によって定められていたり、ある行動をとることが法律で禁止されてしていれば、その行動をとる(とらない)というコミットメントは信頼されやすい。狭い道路で2台の車が出くわしたとき、相手の車が左によれば、その車は、そのまま左に進むとコミットしたいわけであり、そのコミットメントは信頼できる。