「コミット」するというのは、自分が将来に取る行動を表明し、それを確実に実行するということを約束することである。コミットする行為や、約束の内容を指して「コミットメント」(commitment)という。私たちの生活の中で、コミットメントが重要な意味合いをもつ例を見つけるのは容易である。待ち合わせのために時間と場所を決めるというのは、その時間、指定した場所に現れるという行動を、会う相手に対してコミットするということである。
「予約」という制度もコミットメントである。レストランの席を予約する、というのはある時刻にレストランに現れて食事をするということをコミットしていると理解できる。新発売のゲームソフトの予約をするということは、将来製品を売り出されたときに自分がそれを買い求めるということをコミットしているわけだ。しかし、成り行きを見守りつつ自分の態度をできる限りぎりきりまで決めないというウェイト・アンド・シー戦略は、賢い意思決定のためのテクニックのひとつである。
なぜなら、もしも状況が変化すればほかの行動に変更したくなるかもしれないのに、行動を前もってコミットしてしまえば、予定変更の可能性をなくしてしまうことになるからだ。新幹線の自由席の券を出発の日以前に買うことにはあまり意味がないし、美術館の入場券は着いたときにその場で買えば十分だ。この観点からすると、コミットメントはできるだけ避けた方が有利なのだ。
したがって、予約というコミットメントをあえてするからには、その不利益を補う代償を得ているはずである。レストランの例でいえば、満席になって食事ができなくなる不都合を排除していることがその代償になっているというわけだ。しかし、自分の行動だけでなく他人の行動もお互いの利益を決める戦略的環境では、コミットメントの役割はより複雑かつ繊細である。
一般的に選択肢を多く持っていることは有利であると言えそうである。しかし、あえて自分を縛って選択の自由をなくすことが、戦略的な価値を持つ場合がある。脅しは、相手に直接働きかける戦略であるのに対して、コミットメントはこれに反して、相手の行動とは無関係に、自分の行動の選択肢を狭めることを宣言することで、効果が期待できるというのが特徴である。
コミットメントの典型的な形は、「契約」である。契約の場合は、契約を破ることで、訴えられたり、違約金を払うこという状況は、自分を不利にするばかりではなく、むしろ自分を契約により拘束するような状況をつく出すことで、相手の信頼に足る約束や脅しを作り出し、自分を有利な状況にすることができる。つまり、戦略的な価値を増やすことになる。
また、「契約」によらない場合でも、コミットメントすることにより、自分の選択肢を狭めることで、相手がこれを条件としたうえで、今後の展開を考えざる得ななくなるというような場合は、結果的に相手が選択する戦略を縛ることになる。例えば、戦略型ゲームの場合でいうと、複数のナッシュ均衡がある場合、自分が有利な均衡策を相手に選択させることができる。
さらには、本来は戦略型ゲームであるものを、自分が早々に意思表示することにより、相手が後手に回るように仕向けることもできる。すなわち、チキンゲームはその典型であり、同時に行動する形になってはいるが、コミットメントすることにより、あたかも交互ゲームのような選択肢が生まれ、自分の選択した戦略に、相手が拘束されるというわけである。