インセンティブ{その3 人の行動を変えるためのインセンティブ}

 

インセンティブが人の行動を決めている、人はインセンティブによって行動しているということは、裏を返せばインセンティブの構造を変えることで、人の行動を変えることができるということであるし、インセンティブの構造を変えない限り人の行動は変わらないということを示唆している。また、人々の行動が好ましくないものであるならば、それはその人たちに与えられているインセンティブが不当であることに他ならない。

子供に勉強させる場合、いま勉強しておかないと将来に困るから、というセリフはあまり効果がない。それは、「将来困る」ということが子供にとって勉強するインセンティブにならないから、子供の行動が変わらないのである。インセンティブとして機能しない理由は、まず第一に「将来困る」ことが子供にとっては具体的でないため、子供はそれが自分に与えられるであろう罰則であることを理解できない点にある。

第二の理由は、実際に勉強した場合に本当に将来困らないかというと、これはおそらくその発信をした親にもそれほど自信のあることではないから、親の方もそれが罰則であることを子供に理解させることができない点である。この場合は、やはりよく勉強したら金品を渡すなど、子供にとって具体的な約束をするのが本筋であり、それによって子供には勉強するインセンティブが生まれ、行動は変化するであろう。

女性が20歳以上の男性の服装の趣味を変えるためには、きちんとご褒美を上げるべきであって、それによってはじめて男性側に服装に気を使うインセンティブが生じるということを理解しなければならない。あなたには趣味が悪い服装だと思えても、信じがたいことに当の男性は絶対にそう思ってはいない。したがって、適切なインセンティブを与えられなかった男性がある日突然服装のセンスに目覚めるなどは、きわめて難しいことである。

この場合には、女性にとって厄介なのはご褒美の選び方であるかもしれない。理屈の上では金銭で片をつけてもいいはずであるが、あまり実行されているという話は聞いたことがない。男性が女性に与えるインセンティブが、ほとんどの場合金品であることとは対照的である。空き缶の投げ捨ては後を絶たないが、それは空き缶を捨てないことへのインセンティブが弱いことの裏返しに過ぎない。

 空き缶を捨てないインセンティブを与えるためには、罰則規定を強化するのが一つの方法である。シンガポールの街中では空き缶はおろかゴミ屑が落ちていることもまれであるが、シンガポールではゴミを捨てたのを見つかるとかなりの罰則がある。しかし、罰則を科すだけがインセンティブを強める方法ではなく、空き缶を買い取ることにすれば、たちどころに空き缶が集まり、空き缶の投げ捨ては激減する。

2001年に施行された家電製品のリサイクル法により、テレビや冷蔵庫などの大型家電製品のリサイクルが義務づけられた。その結果、これらの家電製品を家庭で廃棄する場合でもリサイクルの費用を負担する必要が生じた。しかし、違法投棄のインセンティブを考えると廃棄時にリサイクル費用を徴収するためには問題がある。なぜなら、正規に捨てる場合に費用がかかるために、近所のゴミ捨て場にテレビを捨てたり、夜中に冷蔵庫を田んぼに投げ込んだりするインセンティブが生じるからだ。

 そのため、違法投棄のコストは正式にリサイクル費用を負担するよりも低くなる可能性が高い。この問題を解決するためには、違法投棄が発見された違反者には、かなり高額の罰金を科すか、あるいは、処理費用を廃棄の時ではなく新製品の購入時に徴収してしまうということで、廃棄の際のインセンティブを高めなければならない。温暖化ガスの削減などについても、同様の考え方で、インセンティブを考えるべきである。