先読みと均衡(その2 予想と均衡)

 

前項の事例は、少し単純すぎたので少し前提を変えてみる。経済記事の見出しに興味を感じる読者が6万人、政治記事の見出しに興味を感じる読者が4万人としたらどうなるだろうか。B誌の見出しが政治記事だと想定すると、A誌が経済の見出しを使えば読者は6万人で、政治の見出しにすれば4万人を分け合うので2万人の読者を得る。よって、相手が政治記事の見出しならば経済の見出しを使うほうが勝る。

しかしながら、B誌の見出しが経済記事だったとすると、経済の見出しを使えば6万人を取り合うことになるから読者は3万人で、政治の見出しならば4万人をそのまま確保できるから、政治の見出しを使うほうが好ましい。この環境では、相手の見出しと重ならないようにするのが好ましい戦略であるといえる。そこでまず、相手がどのような行動をとるかを予想してみるとどうなるだろう。

相手の行動は観察できないわけだから、政治の見出しであるか経済の見出しであるか、可能性は半々であると予想するのはどうか。もしこの予想が正しければ、A誌としては経済の見出しの方が好ましい。なぜなら、どちらの見出しを選んでも、B誌とかち合ってしまう可能性は同じだから、どうせなら読者の多い経済の見出しを選んだ方が得だからだ。しかしながら、B誌の見出しの可能性を半々に見積もるというのは、戦略的思考からすると少し物足りない。

B誌の方でもA誌の見出しには重大な関心をもっているはずで、B誌もA誌同様、読者数の見積もりを立て、いかにして読者を増やそうかと普請しているはずだからである。B誌の見出しの可能性を半々に見積もるというときに、A誌はこの事情を考慮していなかった。戦略的環境において、相手の行動を自分勝手に予想してはならない。相手の行動を予測するためには、相手がなぜその行動をとりたがるのか、掘り下げて考える必要がある。戦略を選択するからには、それ相応の理由が相手にもあるはずだ。

そのような相手の戦略的思考まで掘り下げないことには、自分の戦略の選択を効果的に行うことはできない。戦略的環境においては、自分と相手の戦略の組み合わせを評価すべきということは前述通りであるが、その評価は自分にとっての利益だけでなく、相手にどのような利益があるのかまで含まれなければならない。ゲーム理論では、両誌が取り得る戦略の組み合わせを表記してみるという方法をとる。

両誌は長い間の競争相手で、各記事も似たようなものであるとすると、読者数の見積もりもそう大差ないと考えるのが自然である。そこで、B誌方でも経済の見出しに興味を感じる読者が6万人、政治記事の見出しに興味を感じる読者が4万人であると見積もっていると考えるのが、A誌にとって自然であろう。この前提が正しいときに、B誌がA誌の見出しが経済記事であると予測したとしよう。

B誌も前述のような議論を当てはめることができるはずであるから、競合しないように政治の見出しをつけるはずである。B誌の見出しが政治ならば、競合しない経済の見出しをつけるのはA誌にとっても好都合である。この場合、両誌とも自分の予想する相手の行動に対して最善を尽くす行動をとる予定であり、しかも相手の予定の行動は自分の予想したものと合致しているという意味で、つり合いがとれている(両誌の予想は均衡している)。

 予想が均衡するためには、相手のとり得る戦略と、その戦略がお互いにどのような利益を与えるのかをお互いに把握している必要あることに注意しなければならない。自分とって効果のある戦略を探すためには、利害関係のある相手の戦略を予測する必要があるのは当然のことである。戦略的思考のポイントは相手のとる行動も何らかの戦略的思考にもとづいていることを織り込んで自分の行動を決めることにある。