戦略(その5 戦略的に相手を選ぶ)

 

戦略的利害の生じる相手の選択も、戦略的環境で重要な意味を持つ。なぜなら自分と利害が一致する人との間には戦略的軋轢は生じないし、逆に直接利害関係が生じそうな人と戦略的な関係を結ぶのは好ましくないからだ。人に用事を頼むとき、いかにも暇そうで家でゴロゴロしている人に頼むより、買い物に出かけようとしている人に頼んだ方が、快く引き受けてもらえる可能性が高い。それは利害がほぼ一致しているからだ。

戦略的に相手を選ぶことは、それほど難しいことではないようにも思われるが、現実には自分の利害と相手の利害が完全に一致することはまれであり、選択を誤ると大きなリスクを抱え込んでしまうこともある。企業の合併やM&Aの場合などでも、十分なすり合わせを怠ったことで窮地に追い込まれてしまうことがあり、本当に両者の利害が一致しているのかどうかを見極めるのはそう簡単ではないことも事実である。

企業同士の合併は、一つの企業が相手の企業を吸収するわけであるから、例え見かけは対等であっても、なかなか成功しない。合併する以上、企業の目的と利害はある程度共通していることは間違いないが、具体的にどのような手順で作業を進めるかという問題になると、誰しも自分の慣れ親しんだやり方を急に変えたくないから利害関係が発生する。そうした状態では、複数のグループが意思決定の権限をもつということは軋轢を作る。

一方、「小異を捨てて大同につく」というのが、相手を選ぶということでもあるから、あまり小さなことに拘っていては、大きな利得を逃してしまう。また、選択する時間的な制約もあるとすれば尚のこと、相手を選ぶタイミングも重要であるということになるので、やはり、経営理念やビジョン、戦略などの点での共通性がカギになる。

戦略的に相手を選ぶというのは、組織づくりの原点である。すなわち、規模の大小にかかわらず、あらゆる組織は人間の集合で形成されるわけであるから、その構成員1人ひとりの利得が完全に一致するとは限らない。それでも相手を選択せざるを得ないという環境に置かれている。相手を選ぶという意味で、最小の単位は夫婦である。相手の利得との均衡を見つけられるはずの結婚という意思決定でさえも、時には軋轢が生じてしまう。

また、戦略的に相手を選ぶということは、提携や合併のように利害が一致する相手を選ぶことだけではない。例えば、企業やファンドが敵対的買収を仕掛けて株の公開買い付けを行うなど、仕掛けられた相手企業が望んでいない買収を強いられるという場合、それが会社法の趣旨に違反する濫用的買収であるかどうかは別として、戦略的にはあり得ない話ではない。この場合は軋轢を読み込んだうえで敢えて相手を選んでいる。

このように、戦略的に相手を選ぶためには、戦略環境によって戦略の集合も違ったものになるので、「何のための戦略か」をまず明確にしたうえで環境を読み込むことになる。そして相手を選ぶ前に、場合によっては環境自体を違った角度から見直したり、まず、環境を作り換える戦略を選ぶことにもなる可能性もある。私はこれを、「ゲームを作る」と呼ぶことにしている。別の言葉でいえば、勝てる土俵を作るといってもいいかもしれない。

世の中には、自分の意志ではままならないことがたくさんある。それをゲーム理論で解き明かそうとすると、どうしても単純でわかりやすい環境を前提にせざるを得ない。このことと、ゲーム理論という遊戯的な名称が、複雑に絡み合った現実社会の問題を解き明かすには不十分だという誤解を受ける理由なのかもしれない。しかし、ものごとすべからく、一見複雑に見えても、じっくり分析すると単純な構造に作り替えられることはたくさんある。(本ブログ 不十分な濫用的買収者の4類型 2007.11.25参照)