戦略的思考とは、自分の行動だけではなく、他の様々な行動と思惑がお互いの利害を決める環境(戦略的環境)で決まる。すなわち、自分にとっての利害が、単に自分がどうするかだけではなく、他の人がどうするかに依存して決まる。また、自分が戦略的環境のもとで生活していることを認識して、合理的に行動すべく意思決定することが、戦略的思考法である。
そして、戦略的分析とは、社会経済現象を戦略的環境における戦略的思考にもとづく意思決定の結果としてとらえ、分析していく手法である。複数の人間が社会生活を営んでいる以上、我々の経済社会において、自分の行動が他人の利害に全く影響を与えない、あるいは他人の行動が自分にとっての利害にまったく影響を与えないという状況はまずあり得ない。
したがって、程度の差こそあれ、我々の身の回りで観察されるどのような事柄でも、戦略的環境において意思決定が行われた結果であるといえる。つまり、われわれは社会生活を営んで行くうえで、好むと好まざるにかかわらず、戦略的思考により効果的な戦略を見出し実行する決断を迫られていることになるわけで、現在の立ち位置はその結果ともいえる。
企業の場合でも、いつどのような製品を売りだすか、どのような価格を設定するかを効果的に行うためには、競合企業の出方を予想することが不可欠であるし、どのような顧客をターゲットにするか、顧客とどのような契約を結ぶかについても、対象顧客の事情を織り込んではじめて効果的な意思決定ができる。これはビジネスの世界に限ったことではない。
日常生活で、学校や会社に行くときの服装や身なり一つとっても、自分を見た人がどう感じるかによってその人の行動が異なってくることもある。印象によって、かける言葉を選び、それによって思わぬ結果を招いてしまったという経験は誰にでもあることだが、言葉の選び方も重要な戦略的決定の一つであり、相手の利害を読み込んではじめて行動を選択できる。
ところが、人は自分の置かれている戦略的環境を必ずしも意識しているわけではない。自分の置かれている戦略的環境の構造を理解して合理的に決定しているかどうかは疑わしい。また、実際に戦略的な思考の結果とられている行動であるにもかかわらず、われわれはその意義について気づいていないことも往々にしてある。これはきわめて勿体ないことである。
戦略的環境での意思決定を考える道具が「ゲーム理論」である。ゲーム理論は、フォン・ノイマン(Johann Ludwig von Neumamn1903-57)によってその基礎の重要な部分が創られ、映画「ビューティフル・マインド」のモデルになったナッシュ(Lohn Nash Jr.1928-)をはじめとする何人かの研究者により行われた1940年代から1950年にかけての研究により、その骨格と方向性が定まった。その後、ゲーム理論は社会科学の様々な方面で応用されている。
実体経済現象の理解に、市場分析だけではなくゲーム理論的分析を用いることが不可欠なものであると認識されており、経済学の専門家たちがゲーム理論の手法を用いて分析した経済問題の例は数多く知られている。企業などの経済主体の行動決定が、自分の都合だけではなく、消費者やライバル企業など他の経済主体の出方などを総合的に分析したうえでなされているという事実を認識しなければ理解できない経済問題は数多い。