リスクと不確実性{その2 戦略的不確実性(1)}

 

戦略的環境では、2種類のリスクを区別して考える必要がある。第一は、環境リスクともいうべき、気温天候や10年後の洋服の流行、新製品に対する将来の需要など、当事者の間ではいかんともしがたいリスクである。第二は、相手がどの戦略を選択するかがわからないことから生じるリスクで、これを戦略的不確実性あるいは戦略的リスクと呼ぶことにする。環境リスクは消滅することはないが、戦略的リスクはそうではない。

前項で議論した均衡の考え方は、相手の戦略を合理的に予測することにより、戦略的なリスクを軽減する試みを考えることもできる。相手も戦略的思考をして最善を尽くすという前提を加えることによって、相手の戦略を予測することから生じる戦略的リスクが少なくなるのである。ここで戦略的環境を次のように考えてみよう。A社の戦略は新製品を投入して大々的に宣伝して「攻撃的」にビジネスを展開するか、それとも「守備的」に地道な営業を続けるかの2つである。A社の利益の水準には、その戦略によって市況が好転するか否かが関わってくる。

ここでは、市況好転にはA社には直接は制御できない環境リスクが含まれていて、それぞれの次のような可能性がある。攻撃的な戦略をとった時には、確率0.5(不変確率0.5)で好転するが、守備的な戦略をとった場合にはその確率は0.25(不変確率0.75)であると想定している。攻撃的な戦略を守備的戦略に対して比較すると、市況が好転したときの利益10、不変の時の利益2と好転する確率、またその時の利益も大きい。

一方で、守備的な戦略をとったときには、確率0.25で好転した時の利益は8、不変の時は4である。つまり、守備的戦略をとったほうが市況が好転しなかったときの利益が大きい{(0.75×4>0.25×8)}のでそれぞれ一長一短ある。この場合、自然な意思決定の基準はそれぞれの戦略がもたらす平均的な利益を基準にすることである。攻撃的な戦略をとった場合の平均的な利益は10億円と2億円が等確率で起こるから6億円で、一方守備的な戦略の平均的利益は、8億円の25%と4億円の75%の合計だから5億円である。

その結果、「攻撃的な戦略にする方が望ましいと結論できる。つまり、攻撃的にすれば守備的な戦略に比べ、市況が好転しない場合のダメージは大きいが、市況が好転する場合の利益が大きいため、ダメージを受ける可能性が50%あってもそのリスクを負担するだけの価値があるのだ。しかしながら、市況が好転するかどうかが、ライバル企業が対抗してとる戦略に依存する場合はこの考え方は物足りない。

例えば、市況の「好転」「不変」の確率が読めない場合を考えてみると、A社にとっての利益が好転するかどうかが相手企業のB社が対抗して攻撃的な戦略をとるか、それとも守備的な戦略をとるかに依存する場合はどうだろう。相手が戦略的に意思決定をするということを除いては、A社の利益の構造は、市況の確率が読める場合と利益の構造が全く同じになっていることに注すべきだ。

この場合、A社のおのおのの戦略の効果はB社が対抗してくるならば、お互いに大量の広告費と開発費を費やして需要を食い合うよりは、はしめから守備的な戦略を選んでおいた方がよいし、守備的に対応してくれるならば攻撃的な戦略を選択したい。しかし、A社が意思決定する時点でB社の戦略はわからないから、A社は戦略的リスクに直面していることになる。

相手の対抗措置がわからないような戦略的環境では、われわれは自分の戦略決定を迷わざるを得ないものなのだろうか。相手の戦略的意思決定を無視して、こうした戦略的環境で、前述のような市況変化の確率を想定するのは、戦略的思考が足りないために無用なリスクへの対応をせざるを得なくなっているし、そもそもこの想定された確率が正しいかどうかも定かではない。