それではどのように考えるべきか。先の戦略的思考のための原則(戦略的な分析や思考法の中心になるのが、「先読み」と「均衡」の考え方である)を適用すれば、先読みの効果を発揮する戦略的環境であることに気がつくだろう。このようなとき、自分の都合ばかり考えず、それぞれの戦略が相手にとってどれだけの効果をもたらすかという点から考えるのが戦略的思考の原則であった。
相手にとっての利益{A社が攻撃的→B社は守備的(10)or攻撃的(2)}、{A社が守備的→B社は守備的(8)or攻撃的(4)}がわからないときは、A社は自分のおかれている戦略的環境を完全に把握できないのである。例えば、相手の利益が{A社が攻撃的→B社は守備的(10,2)or攻撃的(2,4)}、{A社が守備的→B社は守備的(8,3)or攻撃的(4,3)}のように与えられていたらどうだろう。
この場合は先読みによって、もし攻撃的戦略をとった場合、B社の反応は予測できない。なぜなら、B社にとって、攻撃的な戦略も守備的戦略も同じ利益をもたらすからである。もちろん、A社にとってはB社がどちらで反応するかは大問題であるが、戦略の選択が相手によって行われる以上、どちらかの戦略に絞って対策を練るのは危険である。この場合幸いにも、B社がどちらの戦略で対応しようとも、A社にとっては守備的な戦略が望ましい。
攻撃的な戦略をとれば相手も確実に攻撃的な利益は2億円になってしまうが、守備的な戦略をとれば、相手の戦略からくるリスクを被るものの、どちらが選択されるにせよ利益は2億円より大きくなるからだ。相手の戦略に依存して自己の利益が決まる戦略的環境では、相手も自己の利益を最大にしようとしているはずということを認識してこそ、無用なリスクを減らすことができるのである。
残念ながら、相手の利益を考えることによって、戦略的リスクから完全に開放されるわけではない。もし、このような状況を少し変えて、お互いに攻撃的戦略をとりあった結果のA社の利益が6億円である状況を考えると、A社はB社の行動が予測不可能なことから生じるリスクに直面せざるを得ない。しかし、その場合にしても、利益{A社が攻撃的→B社は守備的(10)or攻撃的(2)}、{A社が守備的→B社は守備的(8)or攻撃的(4)}がわからない(相手の利益を無視した状態)のときは、戦略的思考によりかなり問題が単純化されているのである。
ゲーム理論の入門書として有名な『戦略的思考とはなにか』(アビナッシュ・ディキシット、バリー・ネイルパフ著)の冒頭には「戦略的思考とは、相手がこちらを出し抜こうとしているのを承知したうえで、さらにその上をいく技である」と書かれている。ゲーム理論の基礎を説明するにあたって、「どの相手に勝つか」いかにして自分の利益を守るか」をベースに考える場面が多く登場する。
しかし、実際のゲーム理論とは、単純に「相手に勝つ」ことだけを目的とはしていない。むしろ、ずる賢く相手を出し抜こうとすることで「合理的な愚か者」になってしまうことを教えている学問である。まさに、策士策に溺れるという言葉にも通じるところがある。「相手を出し抜く」という狭い意味だけでなく、行き詰まった組織全体を活性化させたり、お互いにとってよりよい選択をするためにこそ、ゲーム理論は活用されるべきものである。
それぞれの利益や思惑が複雑に絡み合うなか、いかにして自分に有利な戦略を打ち出せるかということを志向するのがゲーム理論であるとすれば、競争相手もまた同じように考えるはずである。つまり、角度を変えてみれば、「均衡状態」を築くことでもある。してみれば、強調することで、お互いにとってよりよい選択肢を見つけ出すというのも、ゲーム理論が持つ大きな目的の一つである。