感情の力にアクセスする{その4 マインドサイトの働き...香水選びの背景(ケーススタディ)}

 

マインドサイトのテクニックがどう働くのかを示すために、興味深い例を1つ挙げることにしよう。世界的な大手女性用化粧品会社が、新しい香水の成功可能性を予測するために私(著者)たちに協力を仰いできた。経営陣は、彼らの香水製品が市場で成功している大きな理由は、その製品を使うことが女性たちにとって感情的に満足できる魅力的な経験になるからだとよく理解していた。

そのため、新製品のコンセプトへの女性たちの感情的な反応の質と大きさについて得る情報が、成功の度合いを予測する助けになるだろうと確信していた。マインドサイト・マトリックス調査の導入以前には、この企業は伝統的な投影テスト法を使った非公式の量的調査を通して、香水が感情に与える影響を判断していた。マーケターはつねにもっともよい方法、もっと体系的な科学的手法を探していた。世界的なビジネスを展開するこの企業は、調査結果の数字が統計的に信頼でき、世界中の多くの国で使える感情調査ツールを望んでいた。マインドサイトがこの目標をどう達成したのかを見てみよう。

《マインドサイト調査の戦略》

合計300人の回答者に新しい香水のコンセプト2種類のうち、どちらかを見せる。回答者は最初に、従来タイプの検査法を使ったテストに答えてもらう(例えば、購買意欲、製品のオリジナリティ、価値観についての自己申告による評価)。回答者はその後、マインドサイト調査へと進み、この調査は、新しい香水をつけたときに女性たちがどう感じるかをメーカー企業が参考にする目的で行うと説明を受ける。

・マインドサイト調査ではまず、「私はこの新しい香水をつけることに興味を覚える。なぜなら、これを使うと自分が少しだけもっと...と感じさせてくれると思うから」という文章を使って、ポジティブなイメージを喚起する。

・それに続いて、今度は「私はこの新しい香水をつけるのをためらう。なぜなら、これを使うと少し...な感じがしそうだから」という文章を使って、ネガティブなイメージを喚起する。

・3番目の作業では、回答者がもっとたくさんの文章を選べるようにして、選んだイメージから受ける感情の幅を広げる。

 

回答者への刺激となる香水のコンセプト(どのメーカーの製品であるかは完全に隠すようにした)は次のようなものだ。

 

【シフォンのコンセプトの説明】

わずかにエキソティクでミステリァスな香りにより、あなたが誘惑のダンスを踊る舞台を整える。

【シルクのコンセプトの説明】

この香水をつければ、時代を超越した洗練されたオーラをまとわせ、どこにいても注目を集めるはず。

 

回答者にはまず、それぞれのコンセプトを見たうえで、従来型の5段階評価で購買意欲のレベルを選び、合理的思考で製品の魅力を評価してもらった。その結果から、新しい香水の「見込み客」となりそうな回答者が、さらなる評価のために選ばれた。購買意欲が高いことを示した回答者(最高の評価をした人たち)から成る第一のグループと、それほど購買意欲が高くなかった回答者(2番目と3番目のボックスをチェックした人たち)から成る第二のグループだ。両方のグループに対して、それぞれのコンセプトに対する次のような感情的エネルギーを評価する。

・総合的動機エネルギー...選んだイメージの数とそれにかかわったスピードを組み合わせて計算する。

・総合的感情エネルギー...ポジティブな動機づけエネルギーのスコアから、ネガティブな動機づけエネルギーのスコアを引いたもの。

・感情の原動力と感情の壁...感情エネルギーをマインドサイト・マトリックスの9つの動機づけに従って配分する。これによって、合理的思考で最も期待したグループ(購買意欲の高いグループ)のポジティブな感情が明らかになる。合理的思考ではそれほど納得しなかったグループ(購買欲の控え目なグループ)のネガティブな感情の壁も明らかになる。

《結果とそこから導かれたマーケティング》

「シフォン」の香水コンセプトの結果(企業秘密を守るために公表されない)は、購買欲が高い(最高評価にチェックした)女性たちに、強いポジティブな感情エネルギーが流れていたことを示した。つまり、これらの回答者の大部分は、実際の購買に向かうことが予想される。しかし、購買意欲が控え目だった女性たち(2番目から3番目の評価)は、感情エネルギーがあまり強くはなかったことから、この製品を「買うかもしれない」「おそらく買うと思う」と答えた女性たちのうち、実際に買うのは比較的少数だけであると予想される。

「シルク」の香水コンセプトの結果も、購買欲が高い回答者には、非常に強い感情エネルギーが確認できた。しかし、この場合は、購買意欲が控え目な被験者でも、感情エネルギーが強かった。つまり、それほど合理的に納得していない消費者であっても、購買に向かわせる可能性が十分にあることを示している。したがって、合理的に考えると期待値は「シルク」のコンセプトの方が高いとわかった。「シルク」のプロフィールを9つの動機づけからもっと細かく見てみると、あまり購買意欲の高くなかった回答者に見られる感情的なためらいは、大きな抵抗というよりは、興奮ども低かったということだった。

そこで私(著者)たち購買意欲の高い人たちに強く見られたポジティブな感情の力を強調するマーケティングを推薦した。エンパワーメント、エンゲージメント、達成、世話の動機づけである。この結果をもとに、私(著者)たちは回答者が最初のエクササイズで最も選んだイメージと、そのイメージの説明のうち最も多く選ばれた言葉を使った「感情インフォグラフィック」(訳注:インフォグラフィックは、複雑な情報やデータを視覚的に表現してわかりやすくしたもの)を作成した。企業のコンセプト開発ではこれらの素材が大いに役立った。

この調査で得られた理解を世界に応用するために、この化粧品会社は現在、マインドサイトを使って、香水コンセプトの世界基準を開発している。私(著者)たちの目標は、数値で確認できる購買欲の動機づけ測定法(MPI)を考案することだ。これは合理的思考による購買意欲と、感情的な購買への動機づけを1つにまとめることで、心理学的にも有効な購買行動の予測手段となることが期待される。

これまでのところ、マインドサイトを使った感情研究の結果は、私(著者)たちに満足と励ましを与えるものだった。人の感情がどのように意思決定や市場での行動に影響を与えるかについて、さらに理解を深めるためにこのツールが役立つことを願っている。