感情の力にアクセスする{その2 合理的な脳を超えて、感情情報にアクセスするには(2)}

 

《顔の表情や行動から感情の動きを知る》

言葉によらない行動を感情状態の手掛かりとして使う方法は、感情研究で古くから使われてきたもので、1世紀以上前にチャールズ・ダーウィンが『人及び動物について』の中で説明した内容にさかのぼる。それから1世紀半後になって、この方法は科学的にはより正確さを増した。グロスとレヴェンソンは1993年の研究で、顔の表情と体の動きを特定の感情に結びつけた。

ほかの研究者は(例えばブリックマンは1976年と1980年に、バックハウス、マイヤー、ストッカートは1985年に)、広告刺激に対する感情的な反応を測定するために、声の振動数を測った(声の高さの分析)。もう1つ広く用いられているアプローチは、顔の表情を感情状態の手掛かりとする方法だ。1978年にポール・エクマンとウォレンス・フリーセンが開発した「顔動作記述システム」(FACS)は、人の顔の筋肉が表情をどう変えるかについてのデータを集めることができる。

このシステムの新型はEMFACS(感情FACS)と呼ばれ、顔の表情から感情の性格を明らかにするために使われている。表現行動から感情を測定する方法は、最近になってウェブカム(インターネットに接続して利用するビデオカメラ)がほぼ全世界に普及したことで、アクセス可能性が高まり、測定の幅も広がった。現在の顔表情分析サービスを提供の提供者(有名なのはマサチューセッツ州ケンブリッジのアフェクディヴァ社)は、必要なときにオンラインでユーザーの顔表情分析ができるサービスを提供している。

顔表情分析が特に役立つのは、画面から受ける刺激への対象者反応を、オンラインカメラを使って顔の表情の変化を追跡し判断するときだ。刺激(主に広告や製品の説明)を目にしているときの対象者の顔表情分析を通して引き出される情報は、注意レベルや全般的な好感レベルが中心になる。この技術の大きな欠点としては、顔の表情から微妙な感情を読み取るには、まだ正確さが十分ではないことが挙げられる。

《神経学的なアプローチで感情を知る》

消費者の潜在意識の感情を解き明かすためのアプローチとしてもう1つ急成長しているのが、刺激に対する脳そのものの反応を見ることだ。広告に対する脳の反応を直接測定する初期の方法は、脳波記録法(EEG)を使って脳波の変動(アルファ波とベータ波)を調べた。脳波の分析は、脳の活動を、消費者の覚醒と快楽の状態と関連づけるために使われてきた。

しかし、このアプローチの批判者は、脳の反応を直接測定する妥当性と信頼性に疑いを投げかけてきた。脳の活動を横断的に測る方法は、その他の方法と比べて感情との結びつきが弱いと指摘する研究者もいる。また、脳波が特定の感情や合理的思考と同関連しているかははっきりしておらず、実験室での変数(被験者のどの場所に電極を取りつけられるかなど)が結果に重要な影響を与える可能性があると指摘する研究者もいる。

広告実験をする企業は、EEGから特定の感情を推測するのはどうしても不正確になることを認識し、「全般的な感情」スコアの測定としてのみ採用することが一般的だ。その後、機能的核磁気共鳴断層装置(fMRI)、ポジトロン断層法(PRT)、脳磁気図記録法(MEG)などの新しい脳画像診断技術の開発で、神経学分野での感情研究は大きく発展した。

脳内の磁気活動や放射能パターンを探知するこれらの技術は、製品の好み、広告の効果、ブランド・ロイヤリティなど全般的な感情反応を予測する方法として期待が持たれている。ブレント・ヘリカーは、2006年にfMRIを使った実験で、なじみのあるブランドを見たときに快楽、自己アイデンティティ、報酬に関する脳の領域が活性化され、なじみのないブランドは、不快と関連した領域を活性化させるとことを示した。

神経学のアプローチによる感情の理解は、情報の「源」に直接アプローチするように思えるという点では確かに有力な方法になる。しかし、この測定法は、これまでのころではまだ、感情状態を細かく区別する能力は非常に限られ、ネガティブな覚醒とポジティブな覚醒、注意や記憶の喚起を区別する程度でしかない。

しかし、将来性のある研究分野であることは間違いなく、人の脳についての理解がもっと深まれば、その研究価値はさらに深まるだろう。例えば、人間の脳マップを作成するプロジェクトはオバマ政権から莫大な助成金を得ており、ヨーロッパでの同様の研究とともに、今後さらに脳内の詳細な情報を提供することが期待される。それを実現すれば、脳の活動から感情状態を推察する精度も確実に増すだろう。