感情の力にアクセスする{その2 合理的な脳を超えて、感情情報にアクセスするには(1)}

 

私たちが消費者を理解するために必要とする情報と、消費者との間にあるいくつもの壁を考えれば、感情についての情報を得るための新しい方法が必要であることは明らかだ。消費者が自分で意識できる合理的な脳に直接話しかけても、必要な情報は得られそうもないので、会話の方法を変えなければならない。消費者が自ら話そうとすること、話せることではなく、そのもっと奥まで探る方法を見つける必要がある。

もっとも、マーケターもマーケティング研究者もこれまでずっと、消費者の感情に近づけないことを嘆きながら、何もせずに立ち尽くしていたわけではない。何年も前から、この感情情報にアクセスする別の手段を開発しようとする研究が進行中で、消費者の合理的な脳を飛び越えて、感情にアクセスするさまざまな選択肢が浮かび上がってきた。

こうした手法のいくつかは、脳から情報を得ようとするのを完全に避け、外から観察できる生理的な状態から、感情を推測したり分類しようとするものだ。ほかには、神経科学分野の最新の研究を利用して、感情的な反応や経験で活性化される脳の領域を直接観察するという方法もある。この研究について重要なものを紹介しておこう。

《生理学的反応から感情を知る》

消費者の感情状態を知る方法を探してきたマーケティング研究者は、しばらく前から、感情反応と結びついて自然に生じる生理的現象に目を向けてきた。その代表は、皮膚、心臓血管機能、目から読み取れるものだった。1995年には、研究者のラバーベラとトゥッチャローネが、消費者が広告を見ることで、どれだけ「買いたいという動機づけ」が高まるかの測定方法として、皮膚の伝導性に目を向け、この方法は自己申告よりも購買行動の優れた予測因子になると報告した。

ブルース・カスバートの研究チームも、1996年の研究で心拍数の増減に注目し、広告刺激への生理的反応を測定しようとした。もっと最近では、ブルーノ・レングのチームが2012年に、瞳の直径を測ることで精神活動の活発さ、とくに注意の変化を推測しようとした。消費者の感情反応を明らかにする目的で、こうした生理学的な測定方法を使うことには、少なくとも4つのよい点がある。まず何より重要なのは、この種の自然に起こる生理的反応を見る時には、消費者が意識的に質問に「答える」必要はない。

そのため、反応が歪められることがない。次に、消費者は自分の感情状態を分析したり説明したりする必要がない(私たちは、消費者が自分の感情にアクセスできないことを知っている)。 さらに、生理的反応はその場で測定できないので、消費者の自分の感情についての不正確、不完全で、都合よく飾り立てられた記憶に頼る必要がない。最後に、消費者が広告コンテンツを経験した瞬間の生理的反応につて、リアルタイムのデータを集められるので、不正確な記憶で広告の刺激による影響がゆがめられるのを防ぐことができる。

その一方で、生理的反応から感情を理解する方法はいくつかの欠点もある。最大の欠点は、生理学的な測定方法が、感情の"種類"を区別できないことだ。皮膚伝導性と皮膚電位を測っても、ポジティブな感情とネガティブな感情の違いはわからない。心拍数はその時の感情がポジティブなのかネガティブなものかを区別できるが、それが限界で、例えば、「怒り」と「恐怖」を区別することまではできない。瞳の直径を測れば、感情脳の神経活動量については教えてくれるが、瞳の大きさは意識的な脳の合理的思考にも影響される。したがって、その違いを区別することは難しい。