動機づけの研究{その3 近代の動機づけ...心理学の父たち(1)}

 

18世紀と19世紀には、産業革命の本格化によって、研究者の関心は人間の行動に関する純粋に精神的な側面の探究を離れ、より実際的な探求へと向かい、「応用動機づけ理論」という考えが生まれた。社会科学者や著述家たちは、どれほど工場の機械化を進めても、労働力の管理が伴わない限りうまく機能しないことを理解した。そして、製造業者がこの全く新しいタイプの工場を適切に管理し、産業界で成功するために、動機づけの理解をどう役立てられるかに注意を向けた。その研究の中心になったのが、労働者の動機づけを理解し、その動機づけを増すことで利益性を上げる方法を考案することだった。工場への動機づけ理論の応用は、従業員に動機づけを与えて可能な限り長時間、勤勉に働かせることを望む工場主という新興階級によって、大きな関心事だった。

《ジェレミ・ベンサム(1748から1832)

ベンサムは18世紀末の著書によって、功利主義と呼ばれる倫理思想の父として知られる。彼の提唱した倫理的、社会的原則の中で何より重要なのは、最善の解決策は最大多数の人々に最大多数の善をもたらすものであるという考えだった。ベンサムの膨大な研究の中に、人間の行動の対となる動機づけとして「アメとムチ」という考えが最初に現れた。このレンズを通してみると、動機づけ理論は、よい面と悪い面を見せる。

人間の行動は、否定的な結果を避けるか弱めるとともに、肯定的な結果を手に入れたり強化したりしようとする試みとして表現できる。ベンサムのアメとムチの動機づけ哲学は、『道徳および立法の諸原理序説』の中で表現されている。この中で彼は、「自然は人類を、苦痛と快楽というふたりの主人の支配下に置いた」と論じた。工場の人間性を奪う労働環境が特徴的な時代であったことを考えれば、ベンサムの研究が動機づけ理論を労働者の生産性向上のために利用することに集中したのも、「おそらく自然な結果...と褒められるものではなくても...だった」だろう。 彼の名誉のために言っておくなら、ベンサムは強硬な奴隷制反対論者でもあり、宗教的自由と社会の寛容性全般を強く支持し、工場の労働環境の改善を求めて精力的に活動した。

ウイリアム・ジェームズ(1842から1910)

ウイリアム・ジェームズは、アメリカ心理学の父として広く知られている。彼は『心理学原理』の中で、ポジティブな動機づけとネガティブな動機づけについての見識を、動機づけ心理学の公式理論に統合した。彼の動機づけを人間の行動の源泉と呼んだ。ジェームズはまた、動機づけについての見解を意識的な意思決定、検討、さらに意識的な目標設定とは切り離して考えた。その代わりに、遺伝子に受け継がれた本能が、行動の動機づけとして働いていると主張した。

彼は、人間は自分の生存確率を高め守るような形で行動すると信じた。そして、人間の行動の原因についての説明に、意識的なコントロールや意思決定という層を加える必要はないと考えた。ジェームズが作成した人間の本能のリストには、愛着、遊び、恥、怒り、恐怖、内気、謙遜、愛が含まれる。彼は人間の行動を説明するものとして、20の身体的本能と、17の精神的本能を特定した。

多くの点で、人間の行動に関するジェームズの見解は、フロイトの理論の基礎となっている。フロイトもまた、人間の行動を本能の力に駆り立てられるものとして説明した。ジェームズは、ジェームズ=ラング説と呼ばれる理論でもよく知られている(ジェームズとカール・ランゲが別々に発達させた理論。ランゲはヨーロッパで独自の研究をつづけたデンマーク人の医師)。ジェームズとランゲはどちらも、感情は刺激と反応によって生じるもので、刺激の種類に応じて感情が引き出されるのだと論じた。例えば、ジェームズは、クマから逃げるのは、それが怖いからなのか、それとも逃げているから恐怖を経験するのか、という問

いを投げかけている。