動機づけの研究{その3 近代の動機づけ...心理学の父たち(2)}

 

《ジークムント・フロイト(1856から1939)

フロイトの心理学理論のほぼすべては、彼が治療に当たった神経症患者との接触や観察に基づいている。その治療経験を通して、フロイトは言い間違え(「フロイト的失言」)のような意図的ではない行動や、無意識の行動(『夢判断』)の観察から得られる人間の精神状態に、強い関心を抱くようになった。治療における無意識の役割についての彼の説明はなぜ質問に対する答えをただ分析するだけでは、人の行動の原因について多くを知ることができないのかを、はじめて明快に示した見解となった。

人を本当に行動へと駆り立てているものを知るには、意識的で理想的な判断よりもっと深い部分を探り、潜在意識の強い力を理解しなければならない、とフロイトは論じた。彼は人間の心理が、2つの主要な衝動あるいは動機づけの力に支配されていると考えた。それが生の本能(エロス)と死の本能(タナトス)で、どちらも無意識の領域に現れる。そのときにどちらの本能が優勢かによって、人間の行動はつねに生と死のどちらかに向かっている。

エロスの本能は、食べること、生殖、運動など、生存の確率を高めるような行動や信念に向かわせる。タナトスの本能は、けんかを始めたり、乱暴な運転をするなどの、危険な行動に向かわせる。フロイトは、人間の心理は3つの構成要素...イド(訳注:リビドー(本態的衝動)の貯蔵所で、快感原則に従って快を求め不快を避ける機能を有するとされる)、自我、超自我...から成るという理論によって、同期の理論を次のレベルに発展させた。

人間の行動に関する彼の見解によれば、私たちの行動は、感情的な衝動から何かをしようとする欲求と、理性が妥当または可能と判断することをしようとする欲求の相互作用によって決まり、超自我という判断機能が、何を"すべきか"を教えるのだとした。人を動かす無意識の感情の影響力を研究したフロイトは、現在の無意識の動機づけに関する理論や研究の基礎を整えた。

《デイビッド・マクレランド(1917から1998)

マクレランドはベンサムの職場における応用動機づけ理論の概念をもっと高いレベルに引き上げた。彼の人間の動機づけの力を、企業の従業員のタイプによって異なる動機づけを理解し、その違いに基づいて報酬の種類を変えるように環境を構築する方法として研究した。マクレランドの特定した職場の動機づけは3つ...達成の欲求、親和の欲求、権力の欲求である。

達成の欲求はマクレランドが最初に注目し、最も長期的に取り組んだ研究テーマだった。彼は達成のための努力が、創造、問題解決、課題の達成への原動力となると理解した。観測結果によれば、達成の欲求の強い従業員は、結果として得られる称賛や報酬や賃金よりも、達成そのものに集中する傾向があった。マクレランドは親和の欲求を、他者との調和的な関係を築こうとする力として規定している。 

承認欲求もこれに含まれる。親和の欲求の強い人は通常、職場では「順応者」になり、人と接する機会が多い仕事で成果を上げる傾向がある。最後に、マクレランドは労働者に見られる権力欲求について論じている。彼はこの欲求を2つ形で理解した。個人的権力の欲求には、他者に指示を与えたり責任を持つ立場になることが含まれ、組織的あるいは社会的な権力の欲求には、社会や組織のために他者を統率したいという欲求が含まれる。 達成と親和の欲求に関するマクレランドの研究は、近代の動機づけ理論の重要な基礎を築き、マインドサイト・マトリックスにもはっきりと引き継がれている。