全ての感情に同じ力があるわけではない。動機づけとは、特定のニーズを満たそうとする特定の感情のことである。感情研究を専門とするのであれば、多くの研究者の著書をひも解く必要があるだろうが、マーケ ティング戦略のために消費者の感情を理解することが目的であれば、経験的な感情と動機づけの感情という2つの感情を区別できればたりる。
経験的な感情とは、毎日の生活の中で、自分の周囲で起こる物事への反応として生じる一時的な感情である。生活の中に流れ続けている感情の「音楽」を構成する一つの感情で、人生経験と同じくらい多種多様なものがある。一方、動機づけの感情とは、心の真ん中に秘めている願望やその願望が満たされないときの不満によって高まる感情の力である。
動機づけの感情は生涯にわたってずっと持ち続けるもので、その人の気質や個人的な経験によって育まれる「性格」に近い。その時々に周囲で起こる物事だけが引き起こす感情ではない。私たちを動機づける願
望は、子供の頃の可愛らしい夢から、大人になってからのもっと現実的な希望まで幅広い。長い間、潜伏していたものに突然火がつくこともある。
こうした願望や不満と結びついた感情の力は、つねに私たちの中にある。誰もが自分の生活をいい方向に変える機会、願望を実現する機会、不満なことから逃れる機会をつねに探している。健全な願望は 、人生経験を積み重ねていくうえでは欠かせない。願望があるから人生は面白くなり、前に進ませ、生活を改善する機会に注意を向けさせ力となるのである。願望は生活の目標となるが、そのすべてが必ずかなうというものでもないし、時にはネガティブな要素を減らすことに向けられる場合もある。また、その実現を約束してくれそうな状況が生じたときに、「起動」する。たとえば、「宝くじに当たったから、半ばあきらめかけていた、世界一周旅行への願望」が、がぜん、実現の可能性が高まってきたなどである。
このように願望を起動させ、人に刺激を与えて動かすことこそが、マーケターの仕事である。このように、動機づけ感情は、私たちの生活の中に何らかの機会を見出したときに、行動をポジティブな変化を追及させる力になる。つまり動機づけの感情は、状況や何かの行動への反応ではなく、反対に、行動を起こすための心理的な"要因"となるものである