動機づけマーケティング

 

動機づけマーケティングという言葉を、敢えて定義するとすれば、「人を説得して何かを売ろうとする技術」ということになるだろう。人を説得して何かを売ろうとするのは、私たち人間に特有の行動である。人間とは何はともあれ、社会的で政治的な種なのである。私たちは幼い頃から周囲を説得し、自分の立場や周りの人達に影響与をえようとしてきた。

 人間は売ったり取引したり、交換したりするものを手にした瞬間から、誰かにそれを買ってもらおうと説得する努力を続けてきた。この形は奇妙なほど長くつづいたが、多種多様なコミュニケーション手段が出現し、社会の情報化が大きなうねりのように押し寄せ、溢れるほどの情報の中を1秒1秒かき分けて進まなければならない状況になってしまった。

 みんなが同じものを見たり聞いたりしていたのが当たり前の時代は終わり、メディアとメッセージの消費の仕方にも顕著な変化が現れた。突然、日付が変わってもメディアを消費できるようになったばかりか、みな同じものを見たり聴いたりするのは、もう当たり前のことではなくなっていた。だが、今ではそれさえも古くさく時代遅れになってしまった。

 私たちは、メディアの刺激の津波を前にして、洞窟壁画の時代に役だった心理的メカニズムに再び頼るようになっている。古代の脳をフィルターとして使い、幾つかの物事にだけ注意を払い、他のことはシャットアウトするために役だっている。古代の脳は耳障りな騒音に紛れている重要な合図を見つけ出してくれ、注意を払うタイミングを教えてくれる。

 こうしたフィルターの中でも特に優れているのが「感情のフィルター」である。私たちに注意を引こうと押し寄せてくる全ての刺激に対して、感情フィルターは、「私はこれをどう感じているだろう?」「これは私の役に立つだろうか?」「私はこれから逃げるべきだろうか、闘うべきだろうか?」。感情のフィルターはあらゆる場面でこうした質問を切り返す。

 私たちの脳は今でも扁桃体を使って、新しく入ってくる全ての刺激に対して感情フィルターのプロセスをスタートさせ、上記のような質問に判断を下している。私たちの感情脳は、感覚器官を通して注意を引くものがあると、その物事の感情的な重要性を評価する。この時点で、私たちのコアにある動機づけの力(本書の探求テーマ)がフル稼働を始める。