感情的な絆でむすばれた関係性の例として、この本の著者ディヴィド・フォーブスはスターバックスを挙げている。スターバックスの列に順番を待って辛抱強く並ぶのは、コーヒーのクオリティが競合店のものより優れているから、価格が安くてほかの店で買うよりずっとお買い得だからなどというような理由ではない。つまり、合理的には説明がつかない。
こうした消費者の多くは、スターバックスで買うという「経験」そのものが、それらの人間の一部になっているからだ。その行動が、世の中に対して自分をどう見せたいかだけでなく、「人からどう見られたいか」についてのビジョンにも貢献している。その意味で、スターバックスでコーヒーを買うという儀式は、消費者の感情的ニーズを満たしている。
ある客にとっては、スターバックスに行くとどんな経験をするか、予測を裏切らないことが重要なのかもしれない(安全の動機づけ)。別の客にとっては、違いの解るコーヒー客という自己イメージを保つのに役立つのかもしれない(マスタリーの動機づけ)。また別の客にとっては、スターバックスの店員の接客スタイルが魅力なのかもしれない(尊敬の動機づけ)。
すなわち、こうした客たちは、ただコーヒーを買うのではなく、大きな満足を得られる社会的な儀式を行っているのである。事実、スターバックスは客との関係を非常に大事にしている。客を大事にするという印象を与えるため、実に賢い戦略を使っている。アメリカの店舗では、店員は客の注文を受けるときに名前をたずね、それをカップに書き込む。
そして、その客の細かい好みに応えた飲み物が用意できると、名前を呼び上げる。客はコーヒーのカップを受取り、ラテに3ショットのエスプレッソを追加し、エクステラホットで、などという人とは違う、自分だけのものだとわかっている。こうした個別の対応が、客にとってはその店舗での社会的地位を証明する力強いシグナルになり周囲に発する。
この例からわかるように、動機づけマーケティングのプロセスを発展させようと思えば、多くのことを変えていかなければならない。まず変える必要があるのは、ビジネスへの根本的なアプローチである。しかし、残念ながら、未だに「良い商品だから売れるはず」と信じ込んみ、買ってもらうために消費者を説得するというタイプのマーケターも多い。