(1) 資料の収集
青色申告書を提出している法人は、青色欠損の繰越控除の適用があり、通常の事業年度の申告の際には、その適用を受けて申告書を提出してきているはずである。しかしながら、その申告の際に控除しきれず、消えてしまっている欠損金がある場合が見受けられる。その反面、代表者からの借入金が返済の見込みがないまま負債の部に長年計上され続けている場合も見受けられる。
債務超過のままでは、会社の精算をすることができないため、どこかの時点で代表者から債権放棄を受ける必要がでてくる。この代表者から受けた債権放棄は、会社にとって債務免除益として所得を構成することになり、その計上時期には注意が必要である。清算中の各事業年度では、残余財産がないと認められる場合は、清算中の各事業年度ごとに判断する。解散決算の前に、期限切れ欠損金や代表者からの借入金の状態について調べるとともに、債権放棄を受ける時期の検討が必要となる。。
(2) 申告書の作成
解散確定申告、清算中の各事業年度の確定申告、残余財産の確定申告についても、通常の事業年度に係る確定申告と同じような手順で申告書の作成を行うことになるが、適用できる規定が通常の事業年度の確定申告と一部異なる。適用できる規定が異なるのは、継続企業を前提とした税の優遇策は、清算活動に入った法人についてはその適用を認めないといった考え方によるものである。そこで、日常受けている減価償却の特別償却、圧縮記帳や税額控除が清算法人についても適用が受けられるかどうかに注意して申告書を作成する必要がある。
1) 税務申告書作成時点の注意点
ァ) 所得計算
a) その事業年度の所得に係る事業税の損金算入(法基通9-5-2)
・解散確定申告:損金算入不可
・清算中の各事業年度の確定申告書:損金算入不可
・残余財産確定申告:損金算入可(法人税申告書別表4で減算・留保、法人税申告書別表5(1)に表示)
b) 特別償却(措法42の5他)
・解散確定申告:適用なし
・清算中の各事業年度の確定申告書:適用なし
・残余財産確定申告:適用なし
c) 一括償却資産(法令133の2)
・解散確定申告:通常通り
・清算中の各事業年度の確定申告書:通常通り
・残余財産確定申告:残額一括処理
d) 貸倒引当金(法法52)
・解散確定申告:計上可
・清算中の各事業年度の確定申告書:計上可
・残余財産確定申告:計上不可
e) 圧縮記帳(法法43他)
・解散確定申告:適用あり、圧縮特別勘定は適用なし
・清算中の各事業年度の確定申告書:適用なし
・残余財産確定申告:適用なし
ィ) 税額計算
f) 税額控除
・解散確定申告:控除できるも[所得税額控除(法法68)、外国税額控除(法法69)、仮想経理に基づく課題申告の場合の更正に伴う法人税額の控除(法法70)]
・ 控除できないもの[その他の設備投資促進や中小企業などに対する政策的なもの]
・清算中の各事業年度の確定申告:解散確定申告と同じ
・残余財産確定申告:解散確定申告と同じ
g) 同族会社の留保金課税(法法67-1)
・解散確定申告:適用あり
・清算中の各事業年度の確定申告書:適用なし
・残余財産確定申告:適用なし
h) 期限切れ欠損金(法法59-3)
・解散確定申告:使用不可
・清算中の各事業年度の確定申告書:使用可
・残余財産確定申告:使用可
i) 欠損金の繰戻還付(法法80-4)
・解散確定申告:適用あり
・清算中の各事業年度の確定申告書:適用あり
・残余財産確定申告:適用あり
ゥ)申告書の提出
j) 提出期限
・解散確定申告:解散日の翌日から2カ月以内(法法74-1)
・清算中の各事業年度の確定申告書:事業年度終了の日から2カ月以内(法法74-1)
・残余財産確定申告:事業年度終了の日の翌日から1ヵ月以内(当該翌日から1ヵ月内
に残余財産の最後の分配又は引き渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで(法法74-2)
k) 申告期限の延長制度(法法75の2)
・解散確定申告:適用あり
・清算中の各事業年度の確定申告書:適用あり
・残余財産確定申告:適用なし
2) 地方税の計算と外形標準課税制度
地方税の計算についても、通常の事業年度の取り扱いとは異なる点があるので注意が必要である。
ァ) 法人住民税の場合
法人住民税の場合は、法人税額に一定の税率を乗じて求める法人税割と資本金等及び従
業員数に判定を求める均等割の合計額により税額を求める(地方税法52-2,3・312-3,4)
a) 法人税割(税率)
・解散確定申告:解散日の税率
・清算中の各事業年度の確定申告書:解散日の税率
・残余財産確定申告:解散日の税率
b) 均等割
・解散確定申告:解散日の資本金等の額・従業員数
・清算中の各事業年度の確定申告書:清算中の各事業年度終了日における資本金等の額・従業員数
・残余財産確定申告:残余財産の確定の日における資本金の額・従業員数
ィ) 外形標準課税制度の場合
外形標準制度とは、法人の所得に加えて、事業所に係る地代家賃、従業員に対する給与、借入金に係る支払利息や資本金等など、外形的に判断できる基準を課税標準として事業税を計算し、資本金が1億円を超える法人が対象となる。
a) 所得割
・解散確定申告:計算要
・清算中の各事業年度の確定申告書:計算要
・残余財産確定申告:計算要
b) 付加価値割
・解散確定申告:計算要
・清算中の各事業年度の確定申告書:計算要
・残余財産確定申告:計算不要
c) 資本割
・解散確定申告:計算要
・清算中の各事業年度の確定申告書:計算不要
・残余財産確定申告:計算不要
なお、各市町村の中には、清算中の法人は営業を行っていないことから、清算中の法人に対して、均等割の納付を免除する制度を設けているところがある。申告書の作成の前に、各市町村の法人担当に均等割りの減免制度の有無及びその適用法について確認しておくことが必要となる。