自主解散(その1 解散に向けた事前準備)

 

(1) 清算の検討

 自主解散(廃業)を決定した場合、個人事業主は、解散等の必要はないが、会社の場合には、どのように終了させるのかを検討しなければならない。また、株式会社において代表者が自主廃業を希望していたとしても、解散するためには、株主総会を開催し、株主の同意を得る必要があるため、まずは、株主の意向を確認する必要がある。そして、株主の同意が得られた場合、会社をどのように終了させるかについて、債務超過の場合には、破産若しくは特別清算という手続きを選択し、債務超過でない場合には、通常清算を選択することになる。

 特別清算とは、株式会社に適用される手続きで、裁判所に申し立てを行い、債務の弁済について協定案を提示し、債権者集会での出席債権者の過半数及びそう債権者の3分の2以上の同意を得て協定案が可決された場合には、以後、清算人が協定案に沿った弁済を行い、その余は免除を受け、清算を行うというものである。債務超過が確実である場合でも、債権者が一部弁済で同意が得られる場合には、特別清算を選択することができ、同意を得ることが困難な場合には、破産を選択することになる。

(2) 従業員の受入先の検討

 経営者が廃業を決定する際に問題となることは、従業員の今後の生活である。従業員が高齢で、会社が廃業し後に年金で生活していけるような場合であれば、その後の生活は心配する必要はないかも知れないが、従業員が今後も働くことを希望している場合や、年金を受給できる年齢に達していない場合には、勤めている会社が廃業すると今後の生活に大きく影響することになる。

 そこで、従業員に、廃業に伴い解雇することになる旨を誠実に説明しなければならない。また、その際に従業員を受け入れてくれるような会社を探して、斡旋することも必要になるであろう。また、従業員の中から、新たに会社を起こして事業を継続したいと望む者も出て来る可能性もある。その点も確認しておくべきである。

1) 従業員の解雇と労務

 会社が廃業に向けて準備するにあたって、雇用している従業員を解雇する必要が生じる。労働契約法には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労働契約法16)とある。これによれば、解雇が認められるためには、客観的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合に限られる。

 会社の廃業による解雇が「客観的に合理的な理由」に該当するか否かは、次に掲げる整理解雇の要件を満たすかどうかによる。

) 人員の削減の必要性が存在すること(人員削減の必要性)

) 解雇を回避するための努力が尽くされたこと(解雇回避努力)

) 解雇される者の選定基準及び選定が合理的であること(被解雇者選定の合理性)

) 事前に、説明・協議義務を尽くしたこと(解雇手続きの妥当性)

 会社を清算するものの、別会社で事業を継続するような場合には、雇用する責任を逃れることができない場合も考えられるので、注意が必要である。

2) 販売先や仕入先への打診

 製造業の会社で、技術職の従業員の持つ技術力や開発力は同業他社や、販売先や仕入先から見れば、即戦力としてすぐにでも雇用したい場合がある。その他にも、その従業員の持つスキルは他社でもすぐに業務に生かすことができるものが多くあり魅力的な場合もある。そこで、得意先や同業者にその需要がないか打診してみることも必要である。また、ハローワークでは、会社の廃業等で勤め先が亡くなった場合には、一定の期間失業手当を支給する制度がある。この制度を活用しながら次の就職先を探すことができ、早期に就職先が決まれば一時金を支給される制度を受けることがではる場合もある。

(3) 関係者への通知

 会社を廃業すると、これまでの仕入先は売上を失うことになり、販売先は供給先を失うことになり、取引先の今後の経営に少なからず影響を及ぼすことになる。また、従業員は今後、自身の生活設計を立て直す必要が生じる。そこで、廃業する前に、廃業を考えている旨を伝えておく必要がある。

1) 取引先への通知

 これまで営業活動を通して多くの得意先や仕入先と取引を継続してきた会社が廃業することは、原材料や商品の仕入先がなくなったり、得意先をなくすことになる分けであるから、在庫管理や製造工程を変更したり、販売戦略の見直しなども必要になってくるかもしれない。そこで、廃業を決めた場合、取引先の対応準備に必要な時間が十分に取れるよう配慮し、早めに通知しなければならない。また、長年お世話になったことへの感謝の意思を伝えるとこも忘れてはならない。

2) 従業員への通知

 会社の廃業は従業員にとっては、生活の糧である収入が一時的にせよ途絶えることになるので、一家の生計の基礎を立て直さなければならない重大な局面を迎えることになる。法的には、廃業せざるを得ない状況を説明すれば足りるとしても、個々の従業員やその家族が抱えている状況はそれぞれなので、再就職の斡旋はもとより、今後の生活設計についても相談に乗る姿勢を示すベきである。

3) 解雇に伴う諸手続

) 大量離職届

 事業の廃業等で30人以上の従業員を解雇する場合には、解雇の日から1ヵ月前までにハローワークに大量離職届を提出する必要がある(雇用対策法27)。なお、この提出の際に窓口で従業員名簿の提出を求められるので、あらかじめ準備しておかなければならない。

) 社会保険の資格喪失届

 社会保険に加入している場合、健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届、各従業員の健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を社会保険事務所へ提出する必要がある。この提出を行わないと、従業員が社会保険から国民健康保険、国民年金への変更手続を行うことができないため、可及的速やかに行う必要がある(健康保険法48)。

) ハローワークへの雇用保険被保険者資格喪失届

 事業主は従業員を解雇した後、10日以内に雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書を作成し、ハローワークに提出しなければならない(雇用保険法7)。