会社分割を行う(その2 吸収分割契約・新設分割計画の承認等)

 

(1) 契約等の締結等

 会社が吸収分割する場合は、吸収分割契約を締結する必要があり(会社法757)、新設分割をする場合には、新設計画において目的や商号等会社法763条で規定されている事項を定めなければならない(会社法763)。会社法における吸収分割や新設分割の効力発生の時期及び吸収分割契約や新設分割計画で定めなければならない事項は次のとおりである。

≪分割契約書の記載事項(会社法758)≫

1) 吸収分割会社・吸収分割承継会社の商号及び住所

2) 吸収分割承継会社が吸収分割により、吸収分割会社から承継する資産や権利義務等に関する事項

3) 吸収分割により吸収分割会社・吸収分割承継会社の株式を吸収分割承継会社に承継させる時の株式に関する事項

4) 吸収分割承継会社が、吸収分割に際し、吸収分割に対して権利義務の全て又は一部に変わる対価を交付するときの対価等に関する事項

5) 吸収分割承継会社が吸収分割に際し、吸収分割会社の新株予約権者に対してその新株予約権を交付するときのその新株予約権に関する事項

6) 5)の新株予約権割り当てに関する事項

7) 吸収分割の効力発生日{分割契約の効力発生日(会社法758)}

8) 吸収分割会社が、効力発効日に全部取得条項付種類株式の取得や剰余金の配当をする場合にはその旨

≪新設分割計画書の記載事項(会社法763)≫

1) 新設分割設立会社の目的、商号、本店の所在地、発行可能株式数

2) 新設分割設立の定款で定める事項

3) 新設分割設立会社の設立時の取締役の氏名

4) 新設分割設立会社が、監査役設置会社等である場合には、その監査役の氏名

5) 新設分割設立会社が、新設分割により新設分割会社から承継する資産や権利義務等に関する事項

6) 新設分割設立会社が、新設分割会社に対して対価として交付する新設分割会社の株式の数又はその算定方法・資本金及び準備金に関する事項

7) 2以上の会社が共同して新設分割するときの新設分割会社の株式の割当に関する事項

8) 新設分割設立会社が、新設分割に際し、新設分割会社の新株予約権者に対して対価して新設分割会社の社債を交付するときの社債に関する事項                                                                     9)  8)の場合における社債の割当てに関する事項                                                                    10)  新設分割設立会社が、新設分割に際し、新設分割会社に対して対価として新設分割会社の新株予約権を交付するときの新株予約権に関する事項

11) 10)の場合におけるその新株予約権の割当てに関する事項

12)   新設分割会社が、効力発生日に全部取得条項付種類株式の取得や剰余金の配当をす る場合にはその旨

 会社法において記載が任意となっている株主総会の決議に関する事項や労使関係等については必要に応じて記載する。

(2) 事前開示手続

 分割会社及び分割承継会社は、吸収分割契約(新設分割計画書)備置開始日から効力発生日以後6ヵ月間、吸収分割契約(新設分割計画書)の内容、金銭などの割当手をする場合の相当性に関する事項、分割会社及び分割承継会社の最終事業年度の計算書類など一定の事前開示事項を記載した書面等を本店に備え置かなければならない(会社法782-1794-1803-1)。

 吸収分割契約(新設分割計画書)備置開始日とは次いずれか早い日をいう(会社法782-2794-2803-2)。

1) 吸収分割契約(新設分割計画書)等について株主総会の承認を受けなければならない場合には、株主総会の日の2週間前の日

2) 反対株主の株式買取請求の規定(会社法785-3797-3806-3)による通知を受けるべき株主がいる場合は、株主に対し分割をする旨の通知の日又は公告の日のいずれか早い日

3) 債権者保護手続の規定(会社法798799810)による公告の日又は催告の日のいずれか早い日

4) 新株予約権買取請求規定(会社法787-3,4808-3,4)の新株予約権者に分割する旨の通知の日又は公告の日のいずれか早い日

5) 1)から4)に該当しない場合は、吸収分割契約(新設分割計画)の締結(作成)の日から2週間経過した日

 4)5)は、吸収分割会社及び新設分割会社にのみの規定である。

(3) 株主総会の承認

 分割を行うためには、株主総会の承認を受けなければならない(会社法783-1795-1804-1)。この場合の決議は、原則として特別決議となる(会社法309-2十二)。ただし、略式吸収分割及び簡易分割の場合は、原則株主総会の決議は必要とされない。

1) 略式吸収分割

 特別支配会社関係のある吸収分割の場合は、手続きの簡素化という観点から株主総会の決議は必要とされていない(会社法784-1796-1)。ただし、吸収分割会社に交付する株式の一部又は全部が譲渡制限株式である場合で、吸収分割承継会社が公開会社でない場合は、吸収分割承継会社の株主総会の決議が必要である(会社法796-1ただし書)。

 その吸収分割が法令や定款に違反する場合や略式吸収分割契約等の場合にその吸収分割等が、吸収分割承継会社や吸収分割会社の財産等に照らして著しく不当で、吸収分割承継会社の株主又は吸収分割会社の株主が不利益を受ける恐れがある場合は、その吸収分割会社の株主は、それぞれの株式を保有する会社に対し、吸収分割の差止めを請求することができる(会社法784の2)。新設分割の場合は、登記申請まで新設分割設立会社が存在しないため、略式分割の規定はない。

2) 簡易分割

 吸収分割会社又は新設分割会社が、吸収分割承継会社又は新設分割設立会社に承継させる資産の帳簿価格が、吸収分割会社又は新設分割会社の総資産の20%を超えない場合には、吸収分割会社又は新設分割会社の株主総会の決議は必要としない(会社法784-2805)。

吸収分割承継会社が承継を受ける分割対価の合計が、吸収分割承継会社の純資産額の20に満たない場合には、吸収分割承継会社の株主総会の決議は必要としない(会社法796-2)。

 吸収分割会社や新設分割会社の純資産額としないのは、大規模な分割事業の移転に際に承継資産を多くして純資産額が少ないことにより、大規模な事業分割に置いて株主総会を開かない簡易分割が可能となってしまうことを防止するためである。ただし、分割により承継資産・負債が債務超過である場合は、株主に不利益が生じるため、株主総会の決議が必要となる(会社法796-2ただし書)。

(4) 株式買取請求手続

 株式買取請求の概要、価格決定の流れは、次のとおりである。

1) 分割会社への株式買取請求

 分割する場合には、分割会社の反対株主は、分割会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる(会社法785-1806-1)。反対株主とは、分割決議に際してその株主総会に先立って分割に反対する旨を分割会社に通知し、かつ決議の際に分割に反対した株主である。また、議決権を有していない株主や、株主総会が不要な場合においては、全ての株主は反対株主として買収請求をすることができる(会社法785-2806-1二)。ただし、簡易分割の場合は、仮に分割により損害が生じた場合でも軽微であると考えられるから、買取請求をすることはできない(会社法785-1二・806-1二)。

2) 分割承継会社への株式買取請求

 分割する場合には、分割承継会社の株主は、分割承継会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる(会社法797-1)。反対株主とは、分割決議に際しその株主総会に先立って分割に反対する旨を承継会社に通知し、かつ決議の際に反対した株主である。また、議決権を有しない株主や、株主総会が不要な場合においては、全ての株主は反対株主として買取請求をすることができる(会社法797-2)。

3) 株式買取請求の価格の決定の流れ

 分割会社の株主及び分割承継会社の株主の株式買取請求の価格決定の流れは以下の通りである(会社法786798807)。

≪株式買収請求の価格の決定の流れ≫

) まず、会社は効力発効日の20日前まで(新設分割の場合は、株主総会における新設分割計画の承認の日から2週間以内)に株主に分割する旨等を通知する(会社法785-3797-3806-3)。一方株主は、効力発生日等の20日前の日から効力発生日前日まで(新設分割会社の場合は、通知又は公告した日から20日以内)に買収請求の株式の種類・数を明示する(会社法785-5797-5806-5)。

) 価格の協議が調った場合は、決定した価格で、60日以内に支払う(会社法786-1798-1807-1)。もし、価格の協議が調わなかった場合は、31日から60日以内に裁判所に価格決定の申立てる(会社法786-2798-2807-2)。価格が決定しても、60日以内に支払いがなされなかった場合は61日以降について年6分の利息を価格に加えて支払う(会社法786-4798-4807-4)。

(5) 債権者保護手続

 分割承継会社の債権者は分割承継会社に対し、吸収分割について異議を述べることができる(会社法799-1)。吸収分割(新設分割)後、原則として分割会社に対して債務の履行を請求することができない分割会社の債権者は、分割会社に対し、吸収分割(新設分割)について異議を述べることができる(会社法789-1二・810-1二)。

 その場合、分割承継会社・分割会社は、それぞれの会社の債権者が異議を述べるか否か判断できるように、一定期間内に分割する旨などを官報等に公告し、主な債権者には個別に催告しなければならない。また、異議を述べることができる期間は、1ヵ月以上としなければならない(会社法799-2789-2810-2)。

 なお、平成26年の会社法改正において、1)分割について異議を述べることができる債権者が、個別の催告を受けなかった場合、若しくは2)吸収分割会社又は新設分割会社が吸収分割承継会社又は新設分割会社(承継会社等)に承継されない債務の債権者(残存債務者)を害することを知って会社分割をした場合には、残存債権者は、承継会社等に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができると規定された(会社法759764)。

(6) 労働者保護手続

 分割をする場合には、労働者保護の観点から労働者保護の手続が必要である。分割会社は、分割について株主総会の決議が必要な場合は、決議の日から2週間前の日の前日(株主総会の決議を必要としない場合は、吸収分割契約(新設分割計画)の締結(作成)の日から2週間を経過する日)までに承継される事業に主として従事する労働者に対し分割に伴う労働契約の承継の有無について協議し、承継させる事業に主として従事する労働者や主として従事していないが承継会社に承継される旨の定め労働者(労働者)、労働組合に対して分割に関する事項を通知する必要がある(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律2)。

 承継事業に主として従事する労働者を承継しない場合や、主として従事していない労働者を承継させる場合には、その労働者は、異議申し立てをすることができる(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律4-1・5-1)。労働者が異議申し立てをした場合には、労働者の意向に従い、労働契約が承継され又は承継されないこととなる(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律4-4・5-3)。