マーケティングの未来

 マーケティングには心理学の助けが必要なことは疑う余地はない。近年はそれに加え、脳科学の研究が進んでいる。すなわち、広告心理学からニューロマーケティングへと変貌しつつある。この本「脳科学マーケティング100の心理技術(ダイレクト出版)」の著者であるロジャー・ドゥーリーは、「おわりに 次は何が来るのか?」という表題の後書きで、次のように述べている。 

 『マーケティン、広告、そしてブランディングの将来は楽しみだ。私たちは、既存のノウハウを活用しつつ、これらの分野に足りなかった科学のエッセンスを加えてみる実験を始めたばかりなのだから。マーケティングに携わる人は誰しも、売れない商品、効果の上がらないキャンペーンを生む数々の誤った判断を目にしてきたはずだ。崩壊した橋に向かって音を立てて走っていく汽車を見るように、失敗が予測できた商品やキャンペーンもあっただろう。

 関係者全員がこれはうまく行きそうだと思ったのに、気まぐれな顧客に結局受け入れてもらえなかった商品やキャンペーンもあっただろう。注ぎ込んだリソースはムダになり、キャリアは挫折、ときには会社そのものがつぶれてしまった例もある。もちろんニューロマーケティングのテクニックは、マーケティングの失敗に効く万能薬というわけではない。

 ただ、莫大な費用をかけて問題の多い製品や効果のない広告を世に送り出すその前に、それらを認識する手助けにはなるだろう。さらに重要なのは、ニューロマーケティングのテクニックがマーケターに客観性のあるサポートを提供できることかも知れない。というのも、マーケターが顧客の気持ちを本当に理解しても、最終的に意思決定するのは顧客だからだ。

 脳の分析やバイオメトリクスを活用するニューロマーケティングの研究は今後ますます低コストで手に入りやすくなってくると思われるが、この種のアプローチを用いるほどでもないプロジェクトもたくさんある。例えそのようなケースであっても、行動科学的研究やもっと一般的な神経科学、神経経済学の研究によって得られる情報はマーケティングにかかわる決断に役だってくれるだろう。それこそが本書の言わんとするところだ。脳の働きを知れば、よりよい製品をつくり、より効果的なマーケティングを実施できる。お楽しみはこれからだ!』。

 確かに、ロジャー・ドゥーリーが言うように、現代のニューロサイエンスは、私たちの脳の内側を見つめ、心理学のブラックボックスを開けるのに役立つツールをもたらした。しかし、翻って考えてみると、自分が今晩の夕食にどんなものを食べたいかはわかっていても、本当にそれを食べるかどうかは、自分自身にさえ分からない。消費者とはそういう人間の塊であることをマーケターは忘れてはならない。