顧客の想像力を刺激する

 モノを触ることによって所有意識が増すというジョアン・ペックとスザンヌ・シュー教授の実験について前述した。その研究の別の実験では、インターネット販売に関する発見もなされている。顧客が商品に触れられない場合でも、ペックとシュー両教授が呼ぶところの所有イマジネーションを使えば、所有者になった気分を高めることができるのだ。

 両教授は被験者に「この商品を持ち帰ったことを想像してください。さてあなたはそれをどこにおきますか?それで何をしますか?」といった質問をした。想像をさせた時間はわずか60秒間ほどだった。想像によって所有気分が高まったのも事実だが、もっと驚く結果が出た。商品に触れることはできなくても、所有イマジネーションをさせられた被験者は、別の影響も受けていた。

 ペックとシューはこう結論づけている。「オンラインショップが見込み客に所有イマジネーションを促すことができれば、所有者気分もその商品の価値づけも高まる。触ることができない状況下では、所有イマジネーションが強く作用し、オーナー気分も、顧客がその商品に払ってもいいと感じる価格も高まった」。顧客に商品を所有した自分を想像させることができれば、販売の確率が上がる。

 当然ながら、「ではどうしたらそんなことがウェブサイトや携帯アプリの中でできるのか」という質問が浮上するだろう。シンプルで低コストな方法の1つは、実験で行われたような、想像を促すフレーズを商品コピーに組み込むことだ。もちろん、対面の実験環境と違い、顧客にさせられることは限られているし、相手が何にどの程度時間を費やすかもコントロールできない。

 また、多くの商品を扱うサイトの場合、商品の1つひとつにビジュアライゼーションの指示が書いてあったらちょっと異様だろう。一部の電子商取引のケースには、そのようなコピーも有効かもしれない。ネットショップの中には、1つの商品に1ページを割き、詳細な商品情報、その商品に満足している顧客の声、よくある懸念への解決策などを記載している。

 通常、そのページまでよく読んでいる顧客はすでにかなり関与が進んでいるということだから、所有イマジネーションもやってくれるかもしれない。私(著者)がこれまで見たなかでベストの所有イマジネーションは、タイヤ・ラック・ドットコム(Tire RackCom)という、自動車タイヤとホィールを全米で売っている小売業者だ。まず顧客に、タイヤ選びの最初のプロセスとして、自分の自動車のメーカー、車種、年式を入力させ、その車に適合するホィールとタイヤをすべて表示する。

 顧客が、例えば特定のホィールに興味をもったら、「装着ビュー」というボタンをクリックする。すると、顧客と同じ車種の写真がドロップダウンメニューとともに出てくるので、顧客はそこでマイカーの色を選択する。するとどうだろう。自分の今選んだホィールやタイヤを装着している美しいマイカーの、シミュレーション写真が出来上がる。サイトによっては、商品の説明文に、所有イマジネーションを促す動画を添えても有効だろう。ネットショップは個々で異なるが、所有した気分を味あわせる方法を見せつければ、顧客転換率と売り上げが上がるはずだ。