黄金比に則ったウェブサイトをつくる

 数学者、建築家、彫刻家、生物学者、グラフィックデザイナーに共通するものは何か。それは、中庸、または黄金比、黄金分割とも呼ばれる、数学で最も興味深い数字を使うことだ。近似値で表すと1.618。数学、科学、芸術の分野で重要な役割を果たす。数学ではギリシャ文字のφ(ファイ)を使って表され、フィボナッチ数列(註訳:1、2、3、5、8、13......)の隣り合う2項の比は黄金比に収束する。生物学では、植物の葉の並び方や巻き貝の中に黄金比が見られる。

 また、建築や絵画、彫刻では、最も安定し美しい比率とされ、意図的に採用されることが多い。史上最も完璧なバランスの建築物と言われる古代ギリシャのパルテノン神殿の正面全貌にも黄金比が用いられている。このように、まったく異なるさまざまな分野において黄金比がよく発見されるのには、驚きというよりも、むしろ少々気味が悪いくらいだ。

 脳科学者たちが、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で脳をスキャンし、この謎の、少なくとも一部の解明に乗り出している。イタリアの研究者たちが、fMRI装置に入った被験者に彫刻を見せた。被験者には、あえて芸術に詳しくない人が選ばれていた。黄金比を使ってつくられたオリジナルの彫刻と、見た目は同じだが、黄金比からはずれるように作り変えられたバージョンの両方が見せられた。その結果、黄金比が用いられた彫刻を見た被験者は、脳の異なる領域が活性化した。

 そのときに一層の活性化が見られた領域の1つが島(とう)である。島(とう)は、情報の伝達に関与している。この反応は、客観的な美しさの指標であると判断された。客観的な美しさとは、個人の好みに左右されない美しさを意味する。われわれの脳がもともと、特定の比率が使われている形に反応するようできているというのは驚くべきことである。

 だからといって、ウェブページや印刷広告のすべての要素が、1:.618の縦横比でなくてはならないというわけではない。ケースによっては、わざとはずしたほうが大きなインパクトを与える場合もある。そもそも、広告は永遠の芸術作品として残されるものではない。内容や使えるスペースによって、寸法はいろいろな成約が生じる可能性があるだろう。

 しかし、グラフィックデザイナーや商業アーティストは、人間の脳が黄金比を好むことを頭に入れておき、適切なときに使うようにすべきだ。特に、ウェブサイトの閲覧者が最初の何十分の1秒で、見た目の魅力度を判断する部分で、脳が備え持つ美的感覚に訴求すれば、脳の瞬時の判断を左右することができる。ここはしっかりとインプットしておこう。