イギリス広告業団体Institute of Practitioners in Advertising(IPA)(英国広告業協会)は、IPA Effectiveness Award(広告効果大賞)への過去30年分の応募作である広告キャンペーン1400事例をデータベース化している。そのデータを使って、感情訴求に依存した広告と、理性訴求と情報を使った広告の利益増加率を比較分析した結果、感情に訴える内容のみの広告が、理性に訴える内容のみの広告に比べ2倍の効果(31%対16%)を挙げていることがわかった。また、感情訴求と理性訴求が混ざった広告と比べた場合も、感情訴求だけの広告の方が(31%対26%)でいくらか効果が高かった。
ハミッシュ・プリングルとピーター・フィールドは、著書『Brand Immortality:How Brands Can Live Long and Prosper(不朽のブランド...ブランドの長寿と繁栄を実現させる方法)』で、感情訴求が理性訴求に勝るのは、われわれの脳が、感情的な刺激を処理するときは認知処理過程を通さないことと、感情的な刺激をより鮮明に記憶するようにできていることが原因と述べている。
プリングルとフィールドは、感情訴求のマーケティング戦略がより効果的とはいえ、消費者の感情に働きかける広告をつくるのは容易ではないと指摘する。ブランドの「切り札」(そんな優位性を持つブランドなら)に基づいた広告ならば、比較的シンプルだろう。しかし、感情訴求を試みた結果、あまりにも現実にそぐわないものになり、墓穴を掘ってしまったブランドは少なくない。
プリングルとフィールドは、感情訴求型のブランド戦略をするつもりなら、そのアプローチを「ブランドの枠組みに組み込む」べきだと提案する。それはかなりの大仕事だし、消費者の動機を心底理解していないとできないことだ。著者らは、「スポーツでの成功」というテーマを浸透させたナイキを引合いにだし、同社が感情喚起に重点を置き、それを中核として広告のスポンサー活動を行なってきたことに言及している。
このような大手と同じような感情訴求型のブランド戦略を規模の小さいブランドが展開するのは無理かもしれない。販売市場をセグメント化し、特定の訴求方法に反応する消費者層を見つけることならできるとプリングルとフィールドは言う。小規模企業が直面する課題はそれだけではない。認知度が低く、消費者がブランド名を商品カテゴリーに結びつけることすらできないという問題がある。
バドワイザーの、あのクライスディール馬とダルメシアン犬が出てくる面白いCMには商品がまったく登場しない。それは、バドワイザーがどんなブランドか視聴者に知れ渡っているからこそできることだ。小規模企業は、少し効果が劣ることを覚悟で理性訴求と感情訴求のコンビネーション作戦を選ぶか、少なくとも、感情訴求ではあっても商品をはっきり提示する内容にすべきである。