この本の著者、ロジャー・ドゥーリーは、言葉の達人フランク・ランツの著書『Words That Work(効く言葉)』を読んで現実を知り、これを順序プライミングと名づけた。ランツの会社が行った調査によって判明したことなのだが、ある政治家候補についての映画3本をフォーカス・グループの被験者に見せたところ、3本をどのような順序で見せたかによって、その候補に対する彼らの意識が変わったのだ。
ランツの実験は、ある偶然から始まった。1992年、彼は、フォーカス・グループに、大統領選の立候補者ロス・ペローについての短い映像3本を見せる実験を行っていた。1本は伝記、2本目は同氏を賞賛する人々の声、3本目は同氏自らのスピーチだ。ある回で、ランツはうっかりスピーチ映像を最初に見せてしまい、その結果、そのグループの被験者たちが、それまでのグループと比べ、ペローに対してはるかに否定的だったことを発見した。更なる実験でも、同候補者をよく印象付けようとするなら、スピーチの映像を先に見せるのは失策であることが示された。
ランツの原因分析では、ペローは見事なビジネスの経歴を持っており尊敬されているが、存在感や言葉によってその強みを表現するのがあまり上手ではない。また、ほかの政治家とは一味違った考えを持っていたことも影響していた。ランツは「人物像と経歴が解らない限り、その人の知性や考えに関する印象がきちんと伝わらない」と言い、誤ったメッセージを伝えないための重要テクニックとして、この順番を守るよう説いている。
彼の言うことはある意味では、当然のことかも知れない。セールスもマーケティングも1つのプロセスであり、セールスパーソンが、顧客のニーズを把握し、商品特長を説明し、懸念を解消せずに成約に至ることはない。違う見方をすれば、ランツの実験結果には驚くべきものがある。被験者は、受け身で3種類の情報を見ていただけであり、なにもセールスの契約を目指して人とやりとりしていたわけではない。そして3本の内容をすべてみたことは変わりないのに、それを見た順番によって、候補者に対する意識が変わってしまった。
これは明らかに、マーケターが知っておくべき重要な作用だ。ペローのケースでは、本当なら第三者によるナレーションや証言によって先に被験者の信頼を築くべきだったのに、その前に彼のちょっと奇抜な考えと耳障りな声を聞かせてしまったために、信頼性が取り返しのつかないほど損なわれてしまった。一度反感を抱いてしまった被験者たちは、後でペローの他の情報を見せられても気持ちが変わることはなかった。マーケティングでは、見る人の注意を引きつけるために、最初にパワフルな主張をすることが多いが、こうした主張よりもまず信頼性を構築する情報から伝え、実際的な主張へと移っていくべきである。