通常は、価格を低く抑える、流通チャネルを拡大する、商品をすぐに持ち帰れる、ローンなどにより支払い条件を緩和するなど、購買の障害を低くする顧客機能の強化を目指すのがマーケターの仕事である。しかし、真の贅沢品の場合は例外である。ある条件を満たした顧客にしか購買できないように店舗を特定の都市に限定して、ハードルを高くする。
高級品をわざわざ買いにくくする手法は他にもあるが、そうした入手困難なブランドは、オーナーたちによって希少価値を高められていることが大きな理由である。その理由の1つが認知的不協和である。認知的不協和とは、脳が以下の矛盾を受け入れる場合のことである。1)この商品を入手するのは大変だ。2)賢い私は、どこにでもある商品を買うために頑張たりはしない。そして脳は、解消策としてこんな言い訳に辿り着く。これはすごい商品だ。だから頑張って買ったかいがある。
今から50年以上前、認知的不協和の解消に関する初期の研究として、スタンフォード大学への研究者からこんな実験を行った。あるディスカッショングループへの参加を希望する被験者に、グループの前で文章を読まなくてはならないというイニシエーション儀式を課す実験だ。「過激」な被験者群は、露骨な性描写(恥ずかしい)内容の文章を読まされた。
一方の「マイルド」な群は、普通の文章を読んだ。その後、被験者全員に、ディスカッショングループの既存のメンバーによる討論の録音を聞かせた。その会話は、わざと退屈でつまらない内容にしてあった。その結果、研究者らは、過激なイニシエーションを体験した被験者の方が、対照群よりも大幅に、その討議を興味深いと評価することを発見した。
認知的不協和は超高級品だけに当てはまるものではない。アップルコンピューターの狂信者たちが、評判の悪いAT&Tの通話サービスを利用しなくてはならないというのに、最新のバージョンのiphoneを買うために何時間も列に並ぶのも、その効果のせいだ。商品自体が素晴らしいのはわかるが、筋金入りのファンの狂信ぶりと、アップル製品への批判を一切許さない彼らの姿勢は、明らかに認知的不協和の影響といえる。
これにはフィードバックグループ効果も働いている可能性が高い。新商品の発売前夜から列に並ぶような本格的なファンは、すでにその商品を気に入るつもりでいる。したがって、それを買うための大変な苦労が、商品を愛おしむ気持ちをさらに強くしているのだ。しかし、レクサスのように、顧客の購買体験をよりラクにすることに手を尽くす戦略を取っているブランドもある。
人気の高い商品を扱っているなら、購入プロセスのハードルを少し上げた方が、購入者の買いたいという気持ちが高まるかも知れない。例えば、商品が品切れ状態になって顧客に不便をかけるような状態になったら、それが人気の表れであるとアピールし、問題をプラスに変える。認知的不協和と社会的証明のコンビネーションが顧客を育ててくれる。