商品をドンドン手に取らせる

 店頭で買い物をしたとき、販売員に、「ちょっと持ってみてください」とか「これ自分の物だったらいいと思いませんか」などと言われたことがあると思う。これについて、2003年に、イリノイ州の司法長官が消費者に注意を呼びかけた。過保護国家の最たる例のように聞こえるかもしれないが、その後の研究で、人はモノに触るとオーナー気分が高まり、そのアイテムにより高い価値を置くことがわかった。さらに、所有したことを想像するとその作用が高まることも判明した。

マーケティングの教授であるジョアン・ペックとスザンヌ・シューは、商品を触った場合と触らない場合で被験者の商品に対する意識がどう変わるかを測定した。また、それを所有する自分を思い浮かべた場合とそうでない場合の比較も行った。スリンキー(訳注:昔流行った、階段を下りるバネのおもちゃ)とマグカップなどの商品を使った一連の実験を行った結果、現物を触ることで、確かにモノに対する評価が変わることが判明した。

 所有権にもいろいろある。法的所有権は無くても、自分の働いている会社だとか、出身校、好きなスポーツチームなどに対し所有意識を持つ。モノに対してもそれと同様に、自分のものでないとわかっていても、さまざまなレベルの所有意識を持つことがある。また、所有意識とは別に、人はモノに対して肯定的な感情あるいは否定的な感情を抱く。

 ペックとシューは、モノを触ることで、所有者になった気分も、肯定的な感情も即座に高まることを発見した。そうならなかった唯一の例外は、モノの表面が、不快な感触であった場合だった。触ったことで所有者気分は高まったが、いっそう好きになることはなかった。顧客に商品を触らせたり持たせたりすることで買ってもらえる可能性が高まる(ただし、感触が不快な場合は別だ。そのことは、どの道伝える必要がある)。

 さらに、その商品の所有者になった気分を味あわせてあげれば、さらに効果が高まる。この実験で使われたのは、小さなおもちゃやマグカップだが、もっと大きいモノや高価なモノも試してもらいたかった。車のテストドライブなどは、絶好の感触刺激だろう。「この車でご自宅のドライブウェイと車庫に入っていくってどうですか」といったことを2、3言えば、オーナー気分とその効果が一層高まる。

 アップルからグッチに至るまで、有名ブランドの主力店舗はみな、管理されたポジティブな環境で見込み客に商品を触ってもらうという目的を課している。商品を顧客の手に持たせれば、それを手にして店を出る可能性が高まるのだ。確かに、こうした精神的所有権を利用したセールストークは、衣料品などをはじめとした多くの商品にも活用されている。