また、「Yours Is a Very Bad Hotel(おたくは最悪なホテル)という投稿スライドもあった。これは、ダブルツリー・クラブ・ヒューストンに対するクレームで、クレジットカードで予約をしていた部屋が確保されていなかったばかりか、おろそかに扱われた2人のビジネスマンが、「夜勤のマイクさん(従業員)」を揶揄しながら批判しているというものだ。
このどちらの場合も、問題を迅速に如才無く処理していれば、広く取沙汰されるような事態には発展しなかったはずである。ダン・アリエリーは著書『不合理だからすべてがうまくいく...行動科学で「人を動かす」』(早川書房)で、単純な謝罪で顧客の態度がどれほど変わるかを示す実験を紹介している。実験は次のようなものでシンプルなものであった。
被験者は5ドルの報酬で簡単な作業をしてくれる人を募って集まった人たちだ。だが本当の目的は、実験者側に対する被験者たちの態度を測ることにある。そのために、作業後被験者にわざと「間違えて」約束より多い報酬を払い、差額をちゃっかり懐に入れてしまえるような環境をつくった。被験者の半分には、実験者が作業を説明し、報酬が作業後に支払われた。
残りの半分の被験者グループは、説明の途中で、実験者の携帯電話がかかり、話が中断された。実験者は無関係で重要でもない内容の通話をした後、謝りもせずに説明を再開した。被験者に報酬を手渡した際「確認してください」とだけ言って実験者がその場を去る設定は、両グループとも同じだった。実験者の通話はたった12秒だったが、失礼な扱いが被験者の心情に影響し、それによって多すぎた報酬を返すかいなかが変わった。
説明が普通に済んだグループは、被験者の45%が間違いを指摘して差額を返したが、携帯電話に邪魔されたグループでは14%に留まった。何秒かの無礼で、正直な顧客が3分の2も減ってしまうということだ。アリエリーは、人に対する無礼は復讐心を煽ると考える。「失礼な扱いを受けたのだから仕返しをする権利がある」というわけだ。この実験では多すぎた分を返さないことが仕返しにあたる。
アリエリーは、この実験にもう1つの設定を加えて再実験した。携帯電話を取った実験者が、通話を終えてすぐに謝るのだ。その結果、驚くべき変化が見られた。謝罪を受けたグループが差額を返した確率は、「邪魔された」グループと同じだったのだ。すぐに謝ったことで、無礼な行為はチャラになったのだ。心からの謝罪は顧客の怒りを鎮める効果が大きい。謝罪は過失を認めることになると考え、躊躇する企業や従業員が少なくないが、それは間違いだ。謝罪もせず、おかまいなしという態度を示すと、顧客は「戦ってやる」という気概を高め、訴訟を起こしたり、クレーム動画を投稿したりといった行動にでる可能性がある。