紙媒体は厚く重く

 紙に印刷された情報を見る時の方が画面で見る時のよりも、脳内の感情的処理がより多く行われることは先に学んだが、紙媒体の方が勝ものがもう一つある。それは重さだ。被験者に、クリックボードに挟んだ就職希望者の履歴書を見て吟味してもらう実験を行った。被験者たちはそれぞれ、軽いクリップボードか重いクリップボードのどちらかが渡された。

 その結果、軽いクリップボードの人よりも、重いクリップボードを渡された人の方が、応募者がその仕事により真剣な関心を持っているという判断を下した。これは、一見奇妙な効果だと思われがちだが、こうした現象はわれわれの言語にも表れている。「重い」という言葉は、特定の文脈(例えば「重い内容」とか「重厚な作品」といったように)において「真剣」の類義語となっている。

 この2つの言葉は「重々しい」という共通の概念で結ばれている。それは、われわれの印刷の習慣にも反映されている。書類を読む人を感心させたい時ほど、より重い紙に印刷し、表面に厚いコーティング加工などを施してさらに重厚感を加えたりする。この重み効果が、紙VSデジタルの問題にも影響を及ぼしているのだとしたら、どうなるだろうか。

 それは同じ画像を、重みのある印刷物で見るのと、画像の「無重量」のテストで見るのを比較した場合、クリップボードの実験と同じ効果が働いている可能性があるということになるので、印刷書類の方が、デジタルよりも、より重大な印象を与えるということになる。だが、紙媒体とデジタル媒体における重量と重要度の関係は、まだ検証されていない。

 とりあえず、クリップボードの実験からニューロマーケティングのポイントを学びとる意義はある。まず、重量の重い(厚い)書類の方が、軽い(薄い)書類よりも重要な印象を与える。次に、感覚刺激は潜在意識に確実に働きかけるので、印刷物の重さ、質感、エンボス、型抜きなどの特殊加工も効果をもつ。そしてそれが無理なら視覚対象で刺激する。

 つまり、厚紙印刷が高くつきすぎるというような場合は、レンガの重みのように、視覚対象とは無関係な刺激でも、行動を左右するということが実験でわかったということである。このように、重量と重要性の関係をマーケティングに応用すれば、「強く印象づけたいなら厚く重くする」という手法で紙媒体の強みを活かす道がまだあることが再確認できる。