事業計画の必要性

 事業計画の策定に積極的ではない事業主は未だ多い。特に自己資金が豊富である場合は、事業計画の策定を好まない傾向がある。しかし、近年はかつての成長力が影をひそめ、廃業率が開業率を大きく上回っている状態が長く続くようなってきたため、雇用の創出を後押しする意味でも、開業率を高めようとする国の施策が次々に打ち出されるようになった。

 その特徴が最も現れているのが、融資や補助金などの金融支援策である。補助金の申請や融資を受けようとすれば、当然、資金使途や回収の見通しなどについての判断材料として事業計画の提示が求められる。こうした傾向は定着しつつあるが、それでも、財務計画という色彩が色濃く、本来メイン計画であるべき収益計画は形式的なものに止まっている。

 資金調達計画を含む財務計画には、当然、返済計画が組み込まれている分けであるから、資金繰り計画を支える収益計画が示されていなければならない。しかし、これらは得てして収支のつじつまを合わせた形式的な計画である場合が多い。このことに疑問を感じていながらも、金融機関などの要求に応じ、事業計画を策定する事業主も多いように思われる。

 したがって、資金が潤沢な企業は、本音で話すと事業計画はあまり意味がないので策定しないという答えが返ってくる。こうした傾向は昔からあったのだろうか。浪花節めいたことをいうと思われるかもしれないが、江戸時代末期から明治時代にかけて成功を収めた事業家は、明確な経営理念に基づいた事業計画を示して資金調達を行っていた形跡がある。

 すなわち、自分のアイディアで起業すべきか否かを決断するために行っていた調査や分析、製品の購買層、イクラなら売れるか、アイディアの特徴、製造方法・コスト、流通経路の選定、販売費や管理費、最終利益などが矛盾なく描かれていたということである。それが強い説得力となり、出資者や支援者が引き寄せられたため事業が実現できたのである。

 本来はこのような事業計画を評価する、金融機関などの「目利き」も必要であることもさることながら、それ以前に、どのように調査し掘り下げて、起業を決意したかということの後付として事業計画が評価されるべきものであり、「この人なら、実現できる」という信用力が大きな担保になるべきものであるという基本に立ち返る必要があるのではないか。