創造力のよどみない発揮

 創業時に比べ組織の活力が低下している企業は、大なり小なり経営革新を怠ったことにその原因があるように思われる。経営革新は、新製品の開発ばかりではなく、製造方法の革新、販売方法の革新、市場の開拓、リソースの開拓、その他の技術革新やプロセスの革新を含んだ広い概念であるが、やはりその中核となっているのは新製品の開発であろう。

 起業家にとってリスクの大きい特許取得をさけ、市場に一番乗りを果たすことに集中した戦略を選択する以上、競合他社の追従を覚悟しなければならない。そのためには、対象顧客層が望んでいるメリットやどういう問題を解決したいと思っているのかを常に考え続け、競合他社が簡単に真似できないような意外性のあるアイディアを生み出す必要がある。

 すなわち、起業家は市場に製品を提示した時点から、経営革新が求められているということになる。ベンチャー企業などが会社設立後数年で廃業に追い込まれるケースが多いのは、新製品の開発に満足し、創造力の発揮を停止してしまったケースが多い。特許を取得していたとしても同じことで、競合企業の追従を完全に防ぎきれるものとはなり得ない。

その製品が市場から歓迎されるものであれば当然である。特許法とはもともと、他の人と同じようなアイディアで競っているという想定のもとでつくられたものであるから、権利の保全に安堵した途端に追い越されてしまう危険性がある。そのことをよく知っていたからこそ、ジレットのように特許を取り続けて、他社の追従を抑え込む戦略も生まれた。

また、特許には別の意味での危険性もある。それは、確かに誰も開発しようとしなかったアイディアでることから、特許を取得した製品ではあるが、市場からあまり歓迎されないという場合である。このケースは、誰も思いつかなかったのではなく、あまり魅力がないことを知っていたので、敢えて特許取得のために労を取る気にならなかっただけである。

 そこを勘違いさせてしまうという魔力が特許にはある。特許を取得することを目的化するのではなく、昔からある様々な製品を手に取り、「加えたり」「取り除いたり」「取り替えたり」「逆にしたり」「別の用途をみつけたり」することで、人の暮らしを楽にさせることを考えることで、業界の先頭を走ることを考えるのが、起業に成功する一番の秘訣である。