発明にはリスクはつき物とはいうものの、開発費用の見積もりや調達力にも不安がある場合はうかつに見切り発車するわけにはいかない。全ての起業家がこうした状況下に置かれているとは限らないが、ごく一般的に言えば、起業家はこうしたハードルを避けるべきであろう。現に、モノを主体とした新興企業が失敗する原因の一つはこの辺にあるようだ。
逆に、比較的短期簡に市場に受け入れられている製品は、シンプルで理解しやすく、作りやすい、売れやすい、そして今までにない製品である。消費者や卸売業者、小売業者などすべての業者にとって価値があり、人々の暮らしにメリットがあり、製造工程にも適合しているという特徴がある。これらは全て既存市場に対して適合性がある製品なのである。
すなわち、成功を収めているシンプルアイディアの多くは、これまでの実績がある市場に出回っている既存製品を改良あるいは強化したもので、いわばメリットを上乗せしたものである。アイディアによる発明で起業をめざすならば、このように既存製品に手を加えて、その製品が属している狭い市場にちょっと新しい風を吹き込むのが安全で確実である。
もちろん別の方法もある。例えば、新しいアイディアを基にこれまで満たされていなかったニーズを新しい市場に見立て、競争を避けるといったいわゆるブルーオーシャン戦略も時には有効である。しかし、新しい市場は規模も未知数であるだろうし、何よりも、回収期間の長いマーケティング費用が先行することを覚悟しなければならないリスクがある。
これらの点を総合的に勘案すると、製造も比較的容易で、マーケティングコストも安く、かつ、既存の市場もそのまま活用できるというメリットは、起業家にとって大きいものと思われる。コアとなるハードな機能には殆んど変わりないが、ちょっとしたオプションを加えることで、旧来型の製品を陳腐化させるという戦略は、まさに起業家の狙い目である。