取引する公算の高い相手と交渉することを前提とするならば、まず、相手について、スポーツ、趣味、経歴、出身学校、できれば経営理念なども調べておく必要がある。最近はあまり聞かなくなったが、熱烈な巨人ファンと阪神ファンが、野球には全く関係ないビジネス上の交渉をした際、巨人阪神戦の翌日であったため、交渉は不調に終わってしまった。
もしも、こうした情報収集が不十分であった場合は、共通の知り合いなどを介して面談し、それとなく必要な情報を引き出すようにする。そうすることで、お互いに不愉快な話は避けられるし、場合によっては、交渉の本題に関する重要ヒントが掴めるかもしれない。そして、なるべく相手が抱えている問題の解決に役立つ宿題を自らに課すように工夫する。
交渉の結末は妥協であることも多いが、本質的には、妥協ではなくお互いの独自性の差異を生かし、立場やお互いの弱点を補完し合えることが理想である。そうした観点から見ると、いきなり交渉のテーブルに着くよりは、相手の立場や考え方をよく理解するという段取りの方がはるかに大事である。交渉の途中でこう着状態になったときの助けにもなる。
もちろん交渉である以上、最終的なゴールを事前に設定しておくことは必要である。しかし、それは自分の主張を最後まで押し通すという意味ではなく、最悪の場合でも、望ましい代替案を用意しておく懐の深さも必要である。つまり、ゲームの勝ち負けではなく、お互いにメリットを分け合うことであるから、持ち帰り検討し合うということもあり得る。
持ち帰り検討する場合は、検討課題を明確にし、関連性のない話題に言及しないように工夫する。こうした交渉を重ねたにもかかわらず、どうしても接点が見つからない場合でも、検討課題が明らかにされていれば、今後の交渉相手の候補としてリストに載せておく意味がある。何故ならば、相手を知っているということ自体がメリットであるからである。