社員に仕事を任せる

 企業は人なりと言われるが、その中でも経営者は最大の経営資源である。創業時には社長が資金調達から製品開発、マーケティング、営業、人材採用・育成まで一人で受け持ち、統合化された経営を実現している。こうしたコンパクトな経営は、金融機関や取引先からも高い評価を受けることになり、社長の信頼は会社に対する信頼となり発展にも寄与する。

 しかし、組織の規模が大きくなると、すべてを一人で管理するのは難しくなってくるが、社員に任せると自分の思い通りにいかないという理由で、従来の管理体制を継続している場合がある。これでは、有能な人材が育たないばかりか、経営者はあまりに管理業務に忙殺されて、戦略的な意思決定ができず、市場環境の変化に対応できなくなる虞が出てくる。

 管理職にもこうした人を良く見かけるが、一人でできるのであれば、社員を採用する必要もないわけであるから、社員に「任せる」ことの重要さをよく考える必要がある。頼れるリーダーは、できる限り多くの仕事を部下に割り振ってこそ、逆に頼りにされるものである。ただし、丸投げのような形で仕事を割り振るだけでは部下の能力を引き出せない。

 まず、仕事を任せる社員を選び、直接面談して、その社員を起用した理由を説明する。そして、その達成目標を明確に伝え、「達成」の形を具体的に描いて示す。当然のことながら締め切(いつまでに)を設け、その仕事の重要性についても十分説明する。また、中間地点で進捗状況を報告できるように日程を設定し、問題点などを確認できるように工夫する。

 ただし、仕事の進捗状況を監督する際には、口出しをせず、相手の自主性に任せる。無事に終了した時は、担当した社員の実績であることを強調し、成功した時は褒めることを忘れないようにする。過度に監視されると、担当した社員が自信を失う虞があり、場合によっては、それがトラウマになり、工夫力や発想力が発揮できなくなり、人材が育たない。

 責任を重んじる企業文化を作り上げ育てるには、プロジェクトに関わる社員全員が、目標達成に向けてそれぞれの役目を全うすることである。それには、仕事を行おうとする相手を信頼しなくてはならない。相手を信頼し、自由裁量権を与えれば責任を持って仕事に取り組めるので望ましい成果も得られ、更に信頼感が高まるという循環が企業文化を作る。