節約する文化を築く

 仕事の質量に応じて、経営者が自身の報酬を決めるのは当然のことであるが、それは、お手盛りで大盤振る舞いをしてもかまわないという意味ではなく、あくまでも正当な評価であると、社員が認める範囲内であることである。そうでなければ、経費を節約するという文化が根づかないため、利益は売上からコストを引いた残りという考え方が蔓延する。

 世界一貧しいといわれたウルグアイのムヒカ元大統領は、「私は質素だか貧しくはない」と語っていたが、節約をすることとケチとは本質的に異なる。節約とは限られた資源を無駄にせず有効に使用するということであり、ケチというのは、必要なモノに対する出費まで渋ることである。企業はビションを達成するために必要な費用は惜しむべきではない。

 例えば、社員の給料や福利厚生費をケチってはいけないが、まだ使えるコピー機をろくに修理もせず、すぐに買い換えようとするのは、節約思考が足りないと考えるべきである。要するに何を基準にして、節約とケチを判別するかという問題であり、目的達成のために今何が必要であるかを基準にものごとを考える規範が組織内に育っているかどうかである。

 企業にとって利益を出すことは、正当な条件であることは疑いない。したがって、経営者が数字に目を光らせるのは当然のことであるが、目標と実績の差異を指摘するだけではあまり意味がない。差異が生じた原因を分析によって明らかにし、速やかに是正策を講じなければならない。そして、その要となるのが販売やマーケティングの活動状況である。

 しかし、中小企業の総資本対経常利益率を見ると、優良企業でも10%程度であるところを見ると、最終利益を確保するのがいかに難しいかが分かる。あらゆる商品がコモディティ化している現状では、さらに難しさを増している。こうした市場環境を考えると、マーケティングコストだけではなく、その他の費用の節減も最終利益確保にはかなり貢献する。

 ある企業で従業員の利益貢献度を分析したことがある。その際行ったのが、「あなたの日常の業務において、会社の利益増加に貢献できることはありますか」というアンケートを実施してみたが、予想した通り答えは散々だった。そこで今度は、(例)として「トイレの電灯を小まめに消す」などを上げたところ、かなりの数の節約アイディアが返ってきた。