インバウンド・マーケティング

 インバウンド・マーケティングとは、顧客の購買行動における能動的な情報検索の過程で、ニーズに沿った情報を提供することで、購買やブランド向上に結びつけるというプロモーションにおけるコンセプトのひとつで、Webを活用として消費者に見つけてもらうという施策が多いことから、Webプロモーションの概念として取り上げられることが多い。

 インバウンド(Inbound)の原義は「入ってくる、内向きの」という形容詞であり、プル戦略と同義語で扱われることが多いが、流通戦略というよりもプロモーションにおける概念としての色彩が強い。具体的には、見込み客に対して有益なコンテンツをネット上で提供し、検索結果およびソーシャルメディアにて、自社のWebサイトに誘導するものである。

 従来のプロモーションは、営業活動やテレホンで積極的に商品を勧めることや、マス媒体を通じて企業から不特定多数の人々に情報発信される形で行われてきたが、この手法では企業から顧客へ向けた流れで発信されるため、アウトバウンド・マーケティングと呼ばれるが、プル戦略と同義語のインバウンド・マーケティングはこれに対義する概念である。

 顧客の情報接触が受動的である場合においては、認知を高めること「まずは商品を知ってもらうこと」が特に重要であったため、情報を積極的に投げかけるプロモーションが行われてきた。しかし、情報技術が発展するに伴い、顧客自らがインターネット上で情報を検索したり、情報を発信したりするという情報接触行動が能動的なものへと変容してきた。

 それに伴い、企業側のプロモーション手法も変容せざるを得なくなってきたことから、インバウンド・マーケティングという概念が注目されるようになった。一方通行のプロモーションを見直し、自ら行動する顧客に向けて、検索エンジンやブログ、ソーシャルメディアといったコミュニケーション手法を活用してプロモーションが行われるようになった。

 インバウンド・マーケティングにおいて最も重要なことは、「顧客の利益を考えて仕組みを作ること」である。購買行動や検索行動のきっかけとなる情報を、顧客にとって有益なコンテンツとして提供することで、能動的に情報検索を行っている顧客側のアプローチをもつ形になるため、必然的に購入可能性の高い見込み客を引き寄せることができる。また、商品を必要としている顧客が自ら調べて情報収集し、購買行動を行うことにより、購買後の満足度も高くなりやすい。

 インバウンド・マーケティングにおいて肝要なのは、顧客の情報検索を有効なものにするということであるが、インバウンド・マーケティングに適したツールを使ってアウトバウンド・マーケティングに該当する行為をしてしまっているという失敗例が見られる。最も多いのが、ソーシャルメディアを使った情報発信が自社の宣伝行為に留まってしまい、顧客にとって真に有益な情報提供ができておらず、顧客とのリレーションを築くことができないケースである。

 顧客の情報検索という、企業側ではコントロールできないアクションを起点とするため、中長期的な視点でのリレーション強化活動を行う忍耐が必要である。短期的な成果を求めてしまうことは、インバウンド・マーケティングにおいては禁物である。取り組みやすいインバウンド・マーケティングとしては、顧客の課題解決を伴う情報提供型の施策である。

 例えば、調味料を活用した調理レシピ提案や、医薬品の薬効成分のメカニズム解説で、なぜ効くのかを理解してもらう、などである。商品理解や使用イメージを具体的に示すことによって、顧客の作ってみたいという欲求や安心して使えるという理解を深めてもらうことができれば、結果として購買行動に結びつく可能性が高まる施策となる。

 顧客の情報接触行動が大きく変容している今日においては、情報検索をサポートする仕組みを整えて購買のタイミングを待つインバウンド・マーケティングの発想は、コミュニケーション戦略として重要度を増している。