認知的不協和の低減

  認知的不協和とは、矛盾する二つのことを認知した場合に生じる不協和と呼ばれるストレス状態を、自分の認知を変化させることで逓減させ、納得しようとする心理過程を指すもので、アメリカの心理学者、レオン・フェスティンガーによって提唱された。認知的不協和は、購買プロセスにおける購買後の評価段階で、「自分が良いと思って購入した商品よりも優れた商品があるかも知れない」という心理的ストレスを抱えてしまった場合などに生じることがある。

 認知的不協和が生じてしまった場合、不協和を低減させるために、自分の決断の正当性を確立する情報を集めようとする。例えば、新車を購入した場合、自分が購入した車と同じ車種に注目してしまうことや、購入した車の広告に注目してしまうことが起こる。これは、購入した行動が正しかったかどうかという不安を取り除くために、「自分の購入した車は、多くのユーザーが選んでいる素晴らしい車だ」という認知や、広告で伝えられる製品の良い点を確認することで「購入は間違いではなかった」という判断を行うことで、不協和を低減させていることになる。

 商品の優れた点や良い評価を見つけると、認知的不協和は低減され、購買者は安心感を得ることができ、次回の購買や口コミといった行動をとりやすくなる。顧客の購買後の認知的不協和を起こしやすいと考えられる商品においては、「買ってよかった」という安心感を購買後のコミュニケーションによって伝えることが重要となる。

 また、酸っぱい葡萄の理論と言われる、心理学における防衛機制の合理化を行うことで、不協和を低減するパターンもある。これは、恋愛における付き合いでも起こる不協和逓減方法であり、手の届かない相手のことを悪く言ったり、関わりを避けようとするといった行動がこれに当る。購買行動に置いては、探索行動時に自分の手の届かない商品や購買候補から外れた商品に対して行われることがある。

例えば、高級外車に対して、「いくら馬力があっても日本ではスピード規制があるから意味がない」「燃費が高くつくので不経済」「いまどき高級車はかっ悪い」などと考えることで、自分の認知的不協和を正当化しようとする。防衛機制の合理化には、甘いレモンの理論という、本当は理想的ではない自分が持っているものを、良いものであると思うことで不協和逓減をする方法もある。

例えば、平均的な価格帯の腕時計の良いところや時計の機能として十分に優れているとろを確認することで、高級時計への憧れを低減させる、などが挙げられる。甘いレモンである平均的な価格帯の腕時計をすべて持っているのだから、酸っぱい葡萄かもしれない高級時計など必要ないという防衛機制の合理化を行う分けである。酸っぱい葡萄や甘いレモンのような不協和逓減方法によって「買わない正当性」とも言える心理的な障壁が形成されてしまうという購買行動に結びつけることは非常に難しくなる。こうした点から、認知的不協和によって形成される「買わない正当性」が、若者の消費離れの一因であると見る向きもある。人は、自らの判断が正しいと思えるように、何らかの正当な理由を探して、認知的不協和を低減している。