コンシュマー・インサイト

 人は様々な感情をもっており、しかも、その時の気分次第で商品の使い方や選択にも影響を与える。したがって、商品の購買行動は必ずしも合理的であるとは限らないが、潜在意識の中には、個性や自分らしさといった表現をしたい気持ちがあり、それが満たされるときに大きな満足を感じるが、一方では他人がどう思うかという感情にも抑制されている。

 すなわち、他人と異なるもので個性を表現したいという気持ちと、流行に沿った同じものを所有したり利用することで安心感をもつという二面性を持っているものである。また、自分の好みよりも、本音で商品を選んでいることも多いはずである。例えば、若い女性などが衣料品や化粧品などを買う場合、自分の好みを犠牲にしても彼氏の好みに合わせる。

 このように、人は合理的な理由だけで商品を選んでいるだけではないわけであるから、ふと目にふれたものが「これいいね」と思ったとき、衝動的に購入することがよくある。「この商品は痒いところに手が届く商品だ」という共感から生まれる感情がその商品を選ばせているからに違いない。このような消費者の「本音」のことをインサイトと呼んでいる。

 コンシュマー・インサイトとは、こうした顧客の潜在的意識の中にあり、行動観察や深層心理の洞察を通じて明らかにされる価値観・行動といった、購買行動の核心のこことである。ところが、従来の消費者分析では、顧客は論理的・合理的に購買行動や認知を判断する存在であるということを前提とした、統計データを基に捉えた分析が殆んどであった。

 しかし、顧客は必ずしも合理的・論理的に購買行動をするわけではないし、また、顧客自身も意識していない要因に影響されて購買行動を行っている場合もある。例えば、生まれ育った環境要因、生活環境の要因、その時々の気分、といった言葉で表現しにくい要因が購買行動を起こさせる本当の要因になっていることもあり、論理的には捉えられない。

 コンシュマー・インサイトは、統計的な調査やデータの表面的な解釈だけではなく、エスノグラフィー、行動観察、デプス・インタビュー、投影法などの潜在的な人間の意識や行動を抽出する手法として活用することで明確化できる。涌谷功氏は、インサイトのことを「心のホットボタン」と名づけて、製品開発やコミュニケーション開発に活用している。