満足から生まれるニーズ

 通常は、心理的アンバランス、生理的アンバランスを解消したいという、ニーズを充足するために行動を起こすが、その行動の結果は、最終的にアンバランスを解消するものではないかことも多々ある。「のどが渇いた」とか「傷が痛む」といった生理的アンバランスを解消したいというニーズであれば、ほぼ完全に満足が得られる可能は高いかも知れない。

 それに対して、明確に形成されていない心理的アンバランスの解消は、達成レベルさえも不明であるから、心の中に浮かんでいるニーズも、一挙にアンバランスを解消できるものではない可能性が高い。したがって、ニーズを充足するためにとった行動も最適な水準の満足を求めてのものではないとすれば、その評価により、新たなニーズが浮かび上がる。

 すなわち、商品やサービスの購買による充足行動の結果、得られた満足は抱いていたアンバランスを完全に払しょくさせるものでなければ、満足のレベルを下げて納得するか、場合によっては諦めてしまえば、アンバランスを解消したいというニーズに対する充足行動に意識が向かなくなることもある。こうした場合、新しいニーズが心の中で生成される。

 つまり、ニーズの充足行動と満足は、お互いに影響し合いながら変貌を遂げるが、満足はアンバランス感情に照らし合わせて判定されるものであるから、新しいニーズはアンバランス感情に変質を迫るという側面もある。大元の心理的アンバランス、生理的アンバランスは不変であるとしても、満足水準の調整によってアンバランス解消ニーズも変化する。

 消費者(人間)は、こうした調整により本音をコントロールすることで折り合いをつけている。そうでなければ、理想の高い人は常に心のアンバランスを解消することができず、満たされない幸福追求活動に疲れ果ててしまうが、低い人は、それほど苦労することなく充足感を味わうことができるので、幸せになれるということになり、かなり違和感がある。

 あるニーズが発生すると、それを充足するため行動し、満足・不満足の判定が下される。この結果が改善ニーズを生むという、ニーズの充足行動と満足の連鎖が展開される。ニーズの質量は人によって、あるいは状況によって千差万別であるから、マーケターとしては満足水準を設定した充足手段を提供する。これがニーズの生まれるメカニズムである。