建前・うそのニーズから本音を知る

 建前や嘘のニーズは本音の行動にはならないので、これを真のニーズと勘違いしてしまうとマーケティングには役立たないように思われる。しかし、本音のニーズは、通常屈折した形で発信されることが多いので、その背後にある上位ニーズ(本音)を推測することも大事なことである。ただ、推測するにはそれなりの根拠が必要なことはいうまでもない。

 それはひとまず置いておくとして、人はどんな時に建前やうそをつくのかを考えてみると、まず、「相手によく思われた」「恥をかきたくない」といった対人的な本音ニーズを満たした場合にこうした行動をとることが考えられる。つまり、相手に対する配慮や一種の「見栄」で心ならずも建前やうその発言をしたりすることは日常的によく見かけられる。

 また、一般的に常識的と目されている意見に対しては、本音で語ることを避けるのが無難であるという判断から、建前を支持する発言をしてしまうこともある。多数決を唯一のよりどころとする民主主義では、多勢に無勢を常に推し量り、多数を占めることがあらかじめ解っている場合には、態勢に逆らわない方が身のためと考える行動をとってしまう。

 さらには、敢えて明確に意思表示することをせず、肯定も否定もしないという態度もよく見かける。例えば、ある商品の購入を勧められた場合、それを「嫌いあるいは欲しくない」とはっきり断らず、「とてもいいものだとは思うのですが」とか「もう少し考えさせてください」などと柔らかく対応するが、本音では明らかに断っているという場合もある。

 このように、本音で語ることで相手が傷ついたり、自分の利得を損ねたりすると判断する場面は多いものである。そのため、アンケートなどで他人には悟られる可能性が少ない場合でも、つい建前で回答してしまうことはよくあるが、「しのぶれど色にでにけり」ということもあるので、回答の中の矛盾から本音を探れる可能性は大いにあるように思われる。

 いずれにしても、建前やうそも本音を意識しているからこそ発言されるものであることは間違いないわけであるから、建前を頭から否定することなく、秩序立ててその真意を解明するという労苦を惜しんではならない。それは、例えて言うならば、向かい風を利用してヨットを前に進める工夫のようものであり、本音で語らないことを嘆いても始まらない。