ニーズ・行動・満足の関係

 一般的に言えば、消費者は心理的アンバランス、生理的アンバランスを抱えており、これを解消したいというニーズを満たすために行動すると考えられる。しかし、現実には、ニーズを直接満たす行動をとるとは限らない。自分が属している準拠集団や世論、自然環境、政治、法律その他により、真のニーズを抑制せざるを得ない場合があるからである。

 また、こうした環境の影響を受けて、初期に抱えていたニーズ自体が変化することもある。例えば、一生懸命勉強して一流大学に入学し、優良企業に就職をしたいというニーズをもっていたが、技術革新の進展にともない、IT関連の仕事に就きたいというニーズに変わることもあるかも知れない。この場合、大学入学はニーズとして弱まることもある。

 また、健康で快適な住環境を手に入れたいという初期のニーズを追い求め、一戸建ての住居を手に入れたとしても、そのニーズはこれで終わることはない。目標に到達すれば、さらにその上位の目標(ニーズ)が発生するからである。すなわち、人間は、どんなに高い目標を達成しても、できることならその上を目指したいという願望を常に持ち続ける。

 ニーズと行動の関係は、確かに目的と手段の関係にあるが、初期の目的は最終目的とは似ても似つかない異質なものであることが多い。つまり、「将を射んと欲すれば、まず、馬を射よ」というスタンスでニーズを設定していることもしばしばある。したがって、ニーズを充足するための行動により得られた満足も、固定的なものではないということになる。

 しかしながら、すべての行動は満足を得るためであることは疑う余地がないで、マーケターは、まず消費者の行動に着目することになるのは当然のことである。そして、そのときのニーズが強いほど行動に現れるので、表面的なニーズだけではなく、その背後にある真の目的を突き止めることが肝要である。ここにこそ新商品開発のヒントが隠されている。

 例えば、よく言われるように、「ドリルを買うという行動」の背後には、トリルを使って開ける「穴」を正確に開けたいという真のニーズがあるからである。すなわち、穴を正確に開ける道具であれば、その手段はドリルでなければならないということにはならないわけである。この場合、消費者は他に相応しい手段がないと思っているからに他ならない。