ニーズの多様な側面(その2)

 ニーズと一口に言っても色々な意味がある。例えば、「健康についてのニーズ」でも、実際に病気に侵されていて、治療して元の健康を取り戻したいというニーズもあれば、バランスの良い食事や適度な運動により、現在の健康状態を維持したいというニーズもある。さらには、積極的に心身を鍛えて一流のスポーツ選手を目指したいというニーズもある。

 すなわち、ニーズには、「現状を維持したいというニーズ」「予想される不安を防止したいというニーズ」「正常な状態に復元したいというニーズ」「現状よりもっと向上したいというニーズ」という側面がある。したがって、このニーズを充足するためには、一括りにした刺激では心に響かない(知覚されない)ため、多様な商品による訴求が必要になってくる。

 それに加えて、商品の価格(消費者から見た予算)との関係も大いに関係するので、ニーズと購買との間にはどうしても大きなブラックボックスが立ちはだかっていることを認めざるを得ない。商品やサービスはマーケター側から見れば、適正と思われる交換価値を持っていると思っても、消費者は価格も含めた総合的使用価値の有無を判断基準とする。

 さらに複雑なのは、消費者は満たされないニーズを充足するに十分だと判断し、購入したとしても、その後の再購買を約束するものではない。それは、その商品やサービスを購入した後でなければ、期待通りの効用であったかどうかが評価できないので、その結果に依存する面が大きい。サービス商品の場合はミスマッチが生じ易いので特に捉えにくい。

 このように多様な顔を持つ捉えどころのないのがニーズであるが、ニーズの存在自体が環境によって作り変えられるという場合も生ずる。例えば、自分はそれほど欲しくない(ニーズを感じない)のだが、ある商品を所有することによって集団の一員であるという証になっているため、心ならず自身のニーズのように振る舞い購買するということもよくある。

 しかし、マーケターの側から見れば、ニーズがあると評価せざるを得ない分けであるから、それが偽りのニーズであるか否かにかかわらず供給体制を整える。また、そうした消費者心理を利用して、意図的にニーズを消費者の心に植えつけることもある。つまり、ニーズはマーケターと消費者のキャチボールの中で醸成されていくとう特質も見逃せない。