ニーズの多様な側面(その1)

 消費者がニーズを意識しているとき、そのニーズを満たす商品やサービスを購入したいと思う。しかし、諸般の事情により、即座に購買行動をとるとは限らない。それは、予算が不足している、それほど急ぐ必要がない、本音でいえば特に欲しいわけではないなど、心の中の葛藤に決着をつけることができないという状態にある場合もあり得るからである。

 こうした場合は、いずれ条件が整えば、購買に至ることになる可能性は高いので、どちらかというと顕在化されたニーズといえるであろうが、実際の商品やサービスを提示された時に、「それが欲しい」というニーズが発生する場合もある。それは、ごく漠然としたニーズとしては存在していたものが、実際に商品が提示されたことで顕在化するからである。

 例えば、部屋の隅まで掃除できる自動掃除機など開発されるはずがないと思っていたが、目の前にそれを可能にする掃除機が提示されると、購買意欲が湧いてくる。自動車の自動ブレーキや自動運転装置なども、潜在意識を呼び起こすものとなる。つまり、これらの商品は、潜在的で未充足なニーズに強く外的刺激を与えることで顕在化を促すものである。

 マーケティングでよく用いられるプロモーション手段として、既存の洗剤では「どうしても落ちなかった汚れ」が、新商品では「こんなにきれいに落ちる」といったものや、サプリメントの効果を知ってもらうために、無料のサンプルを配るなどがある。これらは、消費者が抱えているが未充足のニーズに応えることで購買意欲を引き出そうとしている。

 ところが、未充足の強いニーズに応えるベネフィットを持っている商品だと感じたとしても、前述のように即購買に結びつくとは限らない。それは、いわゆるその商品を購買することにより得られる総付加価値から総コストを差し引いた純付加価値をどのように見積もるかによって異なる。つまり、「よいものは必ず売れる」とは限らないということである。

 そのため、マーケッターは「未充足のニーズ」とそのニーズを充足することによって得られる満足の程度を綿密に測定しなければならない。現代のような情報化社会では、製造コストを積み上げて、その上に希望利益を上乗せするという手法では、消費者の選択眼に叶う付加価値を生み出すことはできない。ニーズとはこのように多様な側面を持っている。