ニーズとは何か

 かなり昔のことであるが、ある公的な会議の席上で、「ニーズ」とい言葉を連発していた時、同席していた大学の先生から、「ニーズ」とは何ですか?と問われ、言葉に詰まったことを覚えている。もちろんその先生は「ニーズ」の意味を知らなかったわけではないが、定義があいまいなまま、「ニーズ」という言葉を使っているのではないか、と指摘したのだ。

 コトバンクによると、ニーズとは、「人や集団が持つ欠乏感のこと。個人の場合、生理的ニーズ(空腹・渇き)、社会的ニーズ(帰属、尊敬)、個人的ニーズ(自己実現)などがあり、人間生活上必要な、ある充足状況が奪われている状態をいう。ニーズはそれ自身では具体的な購買行動とはならず、欠乏感を解消するための商品やサービスへの欲求(ウオンツ)となってはじめて購買行動が起きるとされる」とある。

 この定義は、マズローの「欲求5段階説」の影響を受けているものと思われるが、一般的に言っても、違和感がないように思われる。要するに、「ニーズ」とは、消費者の深層心理構造の中核をなす概念で、消費者の行動を理解する上で不可欠なものであり、全ての行動の前に「ニーズ」があり、その行動を駆り立て、具体的欲求へと繋げていくものである。

 梅沢伸嘉氏は、「欲求」「欲望」「願望」「必要」はすべて「ニーズ」の中身として捉えていており、ニーズ・行動・満足の関係を次のように整理している。すなわち、「ニーズ」とは、「満足」を得るために「行動」を駆り立てる力であり、「行動」の前に発生する。「行動」とはニーズ充足の手段である(「満足」を得るための手段)。「満足」とは行動の結果得られたニーズ充足の評価であり、「行動」の後に発生する。

 こうした考え方に従えば、ニーズは「行動」を観察したり、行動」を語ってもらうことによって推測できる。また、その「行動」は「満足」を得るために駆り立てられるものであるから「満足」について語ってもらうことによっても推測できる。つまり、ニーズは行動と満足の情報から推測して読み取ることができる(投影された情報として読み取る)。

 さらに、ニーズは「目的と手段」で繋がっている3層構造をなしており、ニーズの大元となっているのが「○○な人生を送りたい」といったBeニーズ、そのためには具体的に「△△をしたい」というDoニーズ、それを実現するための手段「××が欲しい」というHaveニーズが層をなしており、それぞれ「目的と手段」の関係として繋がっている。