女性リーダーを育てるソンジュグループ(その2)

 キム・ソンジュは、韓国に本社を置く世界的な高級ブランドの会長兼最高理念責任者を務める人物である。ソンジュの会社が誰も予想しなかったほどの成功を収められたのは、本人によれば、使命感に従ったからだという。ソンジュは会社のすみずみに追いやられている人々を登用し、育てることに力を尽くしたおかげで、世界の大ブランドと肩を並べられる革新的なグローバルチームを築き上げた。

 経営の浮き沈みはあったものの、マーク&スペンサーなどのヨーロッパの小売業者やグッチ、イヴ・サンローラン、ソニアリキエル、MCMといった高級ブランドとの独占ライセンス契約は常に維持した。なかでも「精緻さ、実用性、職人の技」で知られるドイツのMCMは、キムの「アジア的ノウハウ」が成功し、ソンジュグループの収益の柱となった。

 その後、ドイツの経営陣の失策を機に、MCMを買収し本社をソウルに移し、新たな世界展開を手掛けるチームにした。その際も、女性の地位の向上という使命は揺らがなかった。キムはアメリカ、イギリス、ヨーロッパ、中国などの事業所のマネジャーをはじめ、あらゆる役職に女性を登用した。こうしたことは韓国社会では、考えられないことだった。

 キムは名だたるデザイナーを起用せず、あえて若手の有望株のなかから、コラボレーションに特に積極的なデザイナーを選んだ。世界で勝負するチームを築くには、上下関係に左右されない水平的なコミュニケーションが必要だと、キムは感じた。そして、全従業員の声を拾い上げるため、イントラネットも導入して従業員との距離をより近いものにした。

 キムが従業員に課したストレッチアサインメント(正式に定められた仕事以外の仕事をこなす)は、規模が同じような欧州企業では、珍しくないかも知れないが、韓国の慣例に従ってリーダー陣を選んでいたら、実施されることはなかったであろう。あるリーダーによれば、変わったのはブランドイメージだけではなく、授業員たちも目に見えて変わったという。

 キムのように、従来とは違うリーダーシップを発揮することで、困難な状況を乗り越え、めざましい業績をあげている人物が数多くいる。資源が限られているなかで、急成長を続けようとすれば、創造的な解決を要する問題は次々と出てくるだろう。今後、イノベーションが生まれやすい環境を築き、維持しようとするグローバル企業にとって、この例は参考になるだろう。