アキュメン流イノベーションの生態系を築くリーダーの育て方(その2)

 既に立派な業績をあげている研修生も多かったが、アキュメンが求めるのは、業績だけではなかった。アキュメンは道徳的な想像力も求めていた。道徳的な想像力とは、ノヴォグラッツの言葉を借りるなら、「世界をありのままに見る謙虚さと、世界のあるべき姿を思い描くずうずうしさ」を併せ持っていることであった。厳しい選択のすえ、初年度のプログラムには、10人が研修生として参加することになった。

 選考基準にされたのは、「リスクを冒す勇気と意欲があるか」「アイディアや知識や手柄を共有する広さがあるか」「違いを越えて協力関係を築く能力があるか」などだった。このように仕事の能力だけでなく、性格も重視された。ノヴォグラッツの求めた人材の特徴は、「インベーションのリーダーにふさわしい人」の特徴と重なっているのは偶然ではない。

 ニューヨークにあるアキュメンのオフィスで行われた最初の2ヵ月間の研修の目標は、「低所得者層を対象にした事業で必要になる金融やマーケティングや実務の技能を身に着けること」「自分の道徳的な想像力を深く見つめること」であった。そこでは自分の価値観や先入観や抱負のほか、リーダーシップや社会についてじっくり考える時間が設けられた。

 研修では、著名なビジネスリーダーの体験談や詩人の朗読、ルソーなどの哲学者、ガンジー、マーティン・ルーサー・キング・ジュ二アといったリーダーの著作も読んだ。さらには瞑想や実習など多岐にわたった。こうして2ヵ月の研修が終わると、次の9ヵ月は、学んだことを実践する機会として、アキュメンの出資企業の一社で実際に仕事を体験した。

 1年間のプログラムを終了した研修生たちのその後のめざましい活躍は、ノヴォグラッツや研修のプログラムを設計したブレア・ミラーの期待にかなうものだった。数人はアキュメンに入社したが、その他の研修生たちは世界にちらばって、みずから社会的企業を立ち上げた。その一人は、パキスタンで住宅の建設と同国初の貧困層向け住宅ローンを手掛ける会社を設立した。

 こうした数々の実績を踏まえて、ノヴォグラッツとミラーは、研修プログラムの拡大を検討し、現地でその地に根ざした研修プログラムを立ち上げることとし、社会企業を支援している地域で「地域フェロー・プログラム」を設立した。このプログラムの成果は、他では出会えない人々を出合わせて、差別のないコミュニティーや国や社会の実現のため、協力しいあったり学び合ったりすることと、それに、異なるセクターの人々との交流できたことだった。

 このプログラムの成功によって、現地のリーダーを育てる重要性がわかった。一定数以上の有望な個人に、セクターの垣根を越えた協力に必要なリーダーシップのツールを与えれば、イノベーションのリーダーたちのグローバルな生態系が生まれる。アキュメンは貧困層のためのイノベーションを手掛けるリーダーを育てるだけではない。ミラーの言葉を借りれば、「生態系の設計者になれるリーダーの巨大なコミュニティー」も築いている。

 ノヴォグラッツたちがこれらの活動から学んだのは、複雑な問題の持続可能な解決策を見出すには、組織の築き方だけでなく、イノベーションの生態系の築き方を知るリーダーが必要になるということだった。